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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-110

第四三話 《変後暦四二四年三月五日》


「…っぉぉおおおおっっ!!」
 コクピットの内に響く雄叫び。体当たりをかけたベルゼビュールとビルの間に挟まれた無人機がひしゃげ、武器と一体化した腕をだらりと下ろした。
(…そろそろ……か…っ?)
 心の内で呟くエリックの台詞は、敵の殲滅が、という意味ではない。ベルゼビュールを動かせなくなるまでが、だ。イオンブースターの過度使用で残存電力は底を尽きかけ、レバーグローブに感じる抵抗も増している。モーターが止まるのが先か、自分の体力が尽きるのが先か…何れにしても、動けなくなるまでそうはかからないだろう。理論的にはモーターが止まってもワーカーを動かす事は可能だが、その為には一本ンtはあろうかというワーカーの手足を自分の力のみで動かさねばならないのだ。できる筈も無い。
「っらぁぁああああっっ!」
 そんな事を考えている間も、当然足は休めず、ベルゼビュールは細かな足裁きで無人機の陰を渡り歩く。無人機同士の同士討ちを誘い、弾丸を撃ち込み、銃を持って居ない方の腕で無人機を別の無人機へと叩きつけた。
そんな事を続け、無人機群の攻撃に僅かな幕間が空く。エリックは荒れる息もそのままに、モニタに映る無人機群を睨みつける。無人機達はまだまだ増え続ける様相を見せ、数体倒した大型も補充が来ている。
「ボムも、手持ちは使い切ったしな……」
 トレーラーに補給を頼めばまだまだあるだろうが、そのトレーラーは今頃ラスティドームで交戦中だろう。そうでなくては自分が残った甲斐が無いというものだ。
「っと!?」
 思考で、動きが鈍った。すぐ傍の壁を爆発弾が直撃し、瓦礫と爆弾のつぶてをぶちまけられたベルゼビュールは大きく体勢を崩す。足を止めてしまえばそこには猛攻が降り注ぎ、エリックは慌ててベルゼビュールに回避運動を取らせた。なんとか体勢を整えながら、次に攻撃してきそうな無人機に弾丸を撃ち込む。が、その途端。突然ベルゼビュールの足元が大きく盛り上がり、ベルゼビュールを吹き飛ばした。
「……っ!?」
 なんとか倒れずに踏みとどまるベルゼビュール。事態を理解する前に、エリックは盛り上がった地面に対して、大型無人機を挟むように陰に回りこむ。一瞬遅れて。盾にした大型無人機が陸に上がった水魚の如く撥ね、ベルゼビュールの方に吹っ飛ばされる。
爆発武器に因るものではない。凄まじいまでの連射を喰らったのだ。
のしかかるように吹っ飛んできた大型無人機の陰から飛び出したベルゼビュールは、瓦礫の中から胴体を半分ほど突き出したムカデを確認。漸く状況を把握する。盛り上がった地面というのは先ほどムカデを埋もれさせた場所で、機能回復したムカデが瓦礫の中から飛び出し……射撃を行ってきたという次第らしい。要は、気付かない内にムカデを埋めた場所の上で戦闘していたのだ。思考で鈍った動きといい、どうやら本格的に集中力が切れてきたようだ。
「ちくしょうっ!」
 悪態を吐きながらもペダルを踏む足を休める訳にもいかず、エリックはベルゼビュールをひとまず路地へと退避させる。ムカデまで出てきたとあっては、この場所で戦闘を継続するのも限界だと踏んだからだ。
「それに、ここまで食い止めれば……?」
 ちらりと時刻表示に目を遣り、自分が戦闘していた時間を推測する。随分長く戦っていたつもりだったが。実際は長く見積もっても、精々十五分といった所だろう。
「……く……っ」
それでも粘った方だと自分を納得させ、エリックはベルゼビュールにマシンガンの引き金を引かせる。銃身から吐き出された弾丸は、路地までベルゼビュールを追ってきた無人機群へと降り注ぎ、数機を沈黙させる。それでも、無人機群はまだまだベルゼビュール目指して路地へ殺到してくる。どうやら粘りが功を奏したらしく、無人機群の標的は当面の敵であるベルゼビュールに向いたらしい。アルファ達の方へは向かわないだろう。
「素直には喜べないがな……」
 ため息に次ぐため息。じりじりと後ろに下がるベルゼビュールは、突出してくる無人機を片っ端から撃ち貫く。路地の反対側からは無人機が来ないので、包囲されるという事はなさそうだ。
まだ半身が埋まっているであろうムカデが追ってこないと良いがとエリックが思った瞬間、路地にムカデが顔を覗かせた。自分の嫌な想像が状況を悪くしているのかとも思うエリックだったが、考えても仕方ない事なので思考から追い出した。半ば捨てた命ではあるが、とりあえず拾えるものなら拾う心意気だ。


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