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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-107

第四二話 《変後暦四二四年三月五日》
 

サブモニタに表示された振動警告。コクピットにまで伝わるような衝撃ではないのだろう、エリックには感じられないが、確かにセンサが振動を感知していた。振動感知センサはベルゼビュール独自の機能で、接地時の振動感知によって下に空洞があるかを判断したり、辺りに運動する物体がないかを調べる装置だ。仲間の機体が起こす振動にも反応してしまう為、今回のように集団で行動する際には動作させていないのだが……
「……?」
エリックは不審に思ってベルゼビュールの状態を確認するが、電子系機構系共に異常は見受けられない。どうやら何かの弾みで作動してしまっただけらしい。もしかすると、先ほど使用した対ナノマシン用マイクロウェーブの影響かも知れない。
『どうかしましたか?』
 状態確認の為足を止めたベルゼビュールを不審に思ったか、バフォールも立ち止まり、アリシアから通信が入る。全体が、それに倣って前進を止めた。
「…………いや、なんでも……」
 言いながら未だに警告を発し続ける振動センサを止めようとして、レバーグローブから手を引き抜き、コンソールパネルの方へ伸ばすエリック。
「…?」
 ふと、その手が止まる。続いてモニタを確認。バフォールやアーゼン達、それにトレーラーは立ち止まり、動いている機体は無い筈なのにも関わらず。
センサが反応しているのだ。
エリックは急いで、感知した振動の詳細をサブモニタに表示する。振動源との距離は約二百メートル。ビルを隔てた隣の通りを、エリック達に向かって移動している。振動から算定するに、多数の無人機が一列に行軍しているようだが、速度が尋常ではない。
「…何か来るぞっ!! 進めっ!!」
 エリックが部隊内に呼びかけた時にはもう、振動源はビルを隔ててすぐ向こう側まで迫っていた。
『っ!?』
 エリックの警告にアルファ達が反応した、次の瞬間。
突如として、ベルゼビュールの真横にあったビルが派手な轟音と共に爆発を起こした。
衝撃がベルゼビュールを圧し、白い粉塵と瓦礫を撒きちらす。突然の衝撃に倒れそうになりつつも、なんとか堪えるベルゼビュール。
『トレーラーを護りながら、前進!』
爆発による粉塵の収束を待たず、アルファの指示が飛ぶ。トレーラーが動き出し、グリッド機とトレーラーの上に乗った義足のアーゼンが前方、アレク機とバフォールが後方を警戒しながらそれに続く。エリックもそれに続こうとしたが、
『危ないっ!』
「!?」
 アルファの声でベルゼビュールの足を止めた。直後、爆発の粉塵に紛れて何かが飛び出し、ベルゼビュールの眼前を通り過ぎて向かい側のビルに突き立った。
「…な……っ!?」
 思わずベルゼビュールをバックステップで後ずさらせつつ、ビルに突き立った物体を凝視するエリック。一本の長い鉄骨……のように見えたそれは、ずるずるとビルから引き抜かれる。
「…なんだコイツは……っ?」
 粉塵の治まりと共に見えてきたもの。それは爆発の起こったビルから生えた、長い胴を持つ一匹の巨大な昆虫……のように、エリックには思えた。先ほど突き立った鉄骨のようなものは、この昆虫(?)の足だったようだ。
多分ビルをぶち抜いてきたのだろうが、よくよく見れば甲殻を思わせる黒い表皮は金属質の光沢を持ち、頭の高さは推定4メートル前後。恐らくは、ナノマシン兵器の産物たるメカなのだろう。えらく奇抜なタイプが出てきたとも思うが、高機能を追求すると昆虫の形状に行きつくという説もあるし、それを実践しただけとも考えられる。


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