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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-106

『……仕方ない…アリシア、アレを使おう』
『了解。発振装置、起動します』
 絶望しそうになっていたエリックの耳に響く、意味深な会話。
(アレ…?)
 そういえば、ナノマシンに悪影響を及ぼす装置が、エリックの護ったトレーラーに積まれていたと聞いたような気がする。エリックがそんな事を考えていると、突然コクピットのディスプレイにノイズが走った。
途端。残骸を乗り越えベルゼビュールの前に降り立った無人機が、動きを止める。
「……?」
 エリックが不審に思っていると、突如として無人機の表面から白い煙が立ち上り。程なくして、無人機は全身を白い粉と変えて砕け散った。
「……な…何だ…?」
 次々に粉と化してゆく無人機達と残骸を見つめながら、エリックは呟く。
『…特殊ナノマシンを振動させるマイクロウェーブを、数百メートルに渡って発振する装置を使用しました。特殊ナノマシンへの対抗策として、ルゥンサイトと共同開発したものだと聞いています』
 アリシア個人に尋ねた訳でもないのだが、アリシアが律儀にも答えを返してきた。
『無人機はナノマシンが結集して形成する擬似物質によって構成されています。マイクロウェーブによって激しい振動を与えられる事でナノマシン間の繋がりが保てなくなり、単体……つまり白い粉に見える状態に分解されるのです』
淡々としたアリシアの説明。つまりは、この発振装置がある限りは無人機など敵ではないという事だ。それを理解し、エリックは驚嘆した。と同時に、一つ納得のいかない事もでてくる。
「そんなものがあるなら早く使え…」
 今までの苦労はなんだったのだろうと、思わずエリックは疲労感を覚えてしまう。
『……使用は一回きりですから。願わくば、制御部周辺に爆弾をセットしている間の時間稼ぎにとっておきたかったのでしょう』
 つまりは切り札、という事らしい。
「……今の効果範囲に制御部があれば、それで解決なんじゃないか?」
『…その可能性は皆無とは言えませんが……ナノマシンによる物質の再現は手間がかかるため、恐らく制御部は通常の物質で構成されているでしょう。マイクロウェーブによる効果の程は…不明です』
「……なるほどな…」
 という事は、やはり制御部のあるであろう辺りまで進まなければいけないらしい。
「といっても、その見当はついてるのか?」
 形状などが判らない以上、探したところで見つかる筈もない。そう考えたエリックが、作戦開始前からずっと持っていた疑問だった。
『中央部に入ってからは、無人機からナノマシンを採取して解析しています。中央部の中心に進むほど新しいナノマシンが使われていますので、無人機の製造場所は都市の中心に位置している筈です。恐らくは…制御部もそこに』
「…なるほど、ラスティドームか」
 ラスティドームとは、レアムの中心部の更に中心に位置する、主要国家機関を一箇所に集めたドームである。強固なシェルターとしても機能し、ジュマリアという国を護る最後の砦でもある。実際先の戦争でジュマリア軍は、レアム市街地での戦闘を避けて速やかにラスティドームに戦力を集結し、物量で圧すナビア軍勢を手こずらせたという。
「まぁ、少しは先も見えたな」
今ひとつ確実という気はしないが、闇雲に進んでいるわけではないと知ってとりあえず安心したエリック。今までの進路からすればそう遠くない筈だ。
かかっても三十分といったところだろう。
『発振装置が機能している間に、この一帯を抜けよう』
 エリックとアリシアのやりとりを他所に、アルファが全体に号令をかける。
『了解』
 唱和するアレクとグリッド、アリシアとエリックの声。義足のアーゼンに乗っているパイロットは、口が聞けないのだろうか。そんな風にエリックは思ってしまう。
『ドームまでもう少し……早く仕事を終わらせて退散したいね』
 苦笑気味に言うアルファが駆るバフォールに続き、全体は移動を再開した。T字路のあった通りから出れば、遠くにぼんやりと、白い粉を被った巨大なドームが見える。
「……よし………」
この作戦も終盤に差し掛かった事を実感し、改めて気を引き締めるエリック。
その時だった。地面に走る振動を、ベルゼビュールのセンサが感知したのは。


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