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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-101

第四十話 《変後暦四二四年三月五日》


 首都レアムの中心部。ナノマシン兵器が蒔いたとされる白い粉(ナノマシンの残骸?)に覆われ、雪でも積もったように真白に染まった高層ビル街。昼時という時間に反した人気の無さと相まってやたらと寒々しく感じられ、まさに死の街といった所だろう。大規模な戦闘も無かったのか、建物の損傷も殆ど無い事が、不気味さに拍車をかけている。
そんな中で。エリックは戦っていた。
勢い良く無人機がビルへと突っ込み、ガラスや瓦礫を撒き散らす。ベルゼビュールがその無人機を掴んでいた手を離すと、ビルにめり込んでいた無人機はずり落ち、地表を薄く覆っている白い粉塵を巻き上げてそのまま動かなくなる。
「…ふぅ……これで全部か…」
 コクピットの中で呟いたエリックは、レバーグローブから引き抜いた手を軽く振った。ベルゼビュールの周りには、無人機が無数に転がっている。先ほどエリック達が発見し、イオンブースターの推力を活かした電撃作戦を仕掛けたのだ。幸い無人機の集団は、これ以上増える様子も無い。
「よし、OKだ。来て良いぞ」
 エリックの呼びかけに答えて少し離れた小道から姿を現したアーゼンは、歩き出したベルゼビュールの後にぎこちない動きで続く。左足の潰れた膝下には中心部に入ってから見繕った鉄骨を簡易溶接して義足にしてあり、若干不自由ではあるものの移動が大分楽になっているのだ。といっても激しい動きをすれば溶接が剥がれてしまうので、戦闘の役に立たない事には変わり無いが。
「……早めにトレーラーと合流しないとな…」
 進むベルゼビュールの足元。地表を覆う白い粉塵を見遣りながら、エリックは呟く。降り積もっている粉塵には散らされた形跡があり、何かが此処を通った事を示している。無人機の通った跡というのもあるだろうが、轍のような跡はトレーラーのものだろう。中心部に入ったエリックはこの痕跡を発見し、それを辿って此処まで移動していたのだ。
(しかし、痕跡が残っているという事は…)
 無人機達にも、こちらの所在が知れるのではないだろうか。そう考えてしまう。どうも無人機達の動きには、唯の自律攻撃型ロボットを超えたものを感じる。今は軍のネットワークを遮断しているから聞こえないが、通信による撹乱、集団での奇襲等……明らかに統率された戦闘を展開している。恐らくはナノマシン兵器の制御部で指揮しているのだろうが、唯のCPUに出来る事とは思えない。
(…裏があると見て良いかも知れないな…)
 事態は単なる新兵器の暴走などではなく、誰かが裏で糸を引いている可能性もある。レイヴァリーの誰かが仕組んだという事も在り得るのだ。
「………まぁ、考えるだけ無駄か…」
 どうせ、考えた所で判りはしないだろう。そう思い直して思考を切り替えようとしたエリックは、ふとバックモニタに移るものに気付く。白い粉塵を上げて、こちらに迫る影。わざわざ確認しなくとも、正体は知れていた。敵である。
「ち…っ! 今頃増援が……」
 今でなくとも、戦闘中に来られても困るのだが……ともかくエリックは舌打ち一つして、早急に敵の確認をする。巻き上げる白い粉塵に包まれてよくは見えないが、少なくとも十機は下らないだろう。倒している間に、更に増援を呼ばれる可能性のある数だ。
「ここは逃げの手だな……」
 イオンブースターを起動させ、エリックはアーゼンに肩を貸す形で先を急ぐ。義足をつけたとはいえ、全速力で走れるわけもないのだ。まだまだ手がかかる。
「……ここの所、こんなのばかりだ……」
 ようやく動作し始めたイオンブースターの加速を感じつつ、エリックはボヤのだった。


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