White Day -side;arrk--6
触れたそれは柔らかく、温かかった。勿論、それ以上どうこうしようという気は無いから、ほんの僅かな時間だけ触れて、離れた。
突然のことで状況が読めてないのか、リーは呆然としてる。顎を掴んでいた手で頬を撫でると、徐々に赤くなっていく。
「…………」
「無防備すぎるんだよ、本当に。これ以上はお前が自覚したら、の話だ」
今ここで、これ以上なんざ鬼畜もいいところだろ。
「うーっ」
顔と肩から手を離してやると、ズルズルと床にしゃがみ込んだ。そんなリーの前に膝を突いて、片手で赤い髪を梳いてやる。
「後な、さっきのもそうだ。ちゃんと最後まで話しを聞けよ。オレは『来るな』なんて言ってない。お前は学校も教会の仕事もあるんだろ。それって結構疲れるんだよ。オレも見習いの時、そうだったから解かるんだけど。せっかくの休みに無理してこっちの世話なんかしなくていいんだ。部屋に来るのも、会うのも『するな』って言ってるんじゃなくて、ここに来て、ダラダラしてろって言ってんだよ。わざわざ疲れることはしなくて良い。解かるか?」
「わ、解かる……」
「それにお前律儀だから、来る時間決めてるだろ」
休みの日は昼前の11時、平日来るときは夕方の5時。きっかりと、ズレることなく来る。
「……うん」
「それに合わせて、早起きしたり、夜遅くまで勉強してんじゃねーの?」
「う」
リーは言葉を詰まらせて、目を泳がせた。真面目なのは良いけど、それが疲れに繋がるんだよ。いつか倒れるぞ。それにオレが無理させてどうすんだよ。
「だから、来れる時に、好きな時に来い」
そう言って、ポケットからそれを取り出して、リーの目の前に差し出した。咄嗟に両手を出して、それを受け取ると、目を丸めた。
「……鍵……?」
「この部屋の鍵。オレが居なくても勝手に入ってて良いし、好きな時にそれ使って入ってろ」
「へ?」
「『へ?』じゃない。それがバレンタインのお返しだよ。ちょっと早いけど」
他に何にも思いつかなかった。頻繁に家に来るんだから、いずれ渡そうとは思っていたし、いい機会だと思ったんだ。
「それとも要らないか?」
まだ、鍵を眺めたままじっと動かないリーに訊いてみると、顔をパッと上げた。
「い、要る!」
「そりゃ良かった。それ以外準備してねぇから」
一安心だ。オレは再度イスに座った。冷めた紅茶を飲むと、ゆっくりとリーが立ち上がって、シドロモドロ話し出す。
「…………。あの」
「何だ?」
「ありがと、アーク」
リーは嬉しそうに、目を細めて笑った。そりゃあ、至極嬉しそうに。目のやり場に困るくらい。
ホントに…………頼むから、早く自覚してくれ。オレの身が持たない。