White Day -side;arrk--2
結局、考え付かないまま時間は経っていく。
「何してる」
街の傍ら、店の並びから少し離れた公園にあるベンチに座ってると不意に声を掛けられた。珍しく私服姿のヒューイだ。そう言えば、今日は休みだとか言ってたな。
「今日は夜から仕事だから、散歩だよ。…………てか、何だ、ソレ?」
ヒューイの片手に収まってる小さな紙袋を見ると、僅かに笑ってオレの隣に腰を下ろした。
「ああ。あいつの……リアナの好きな林檎だ」
「……は?」
紙袋から取り出されたのは真っ赤な林檎。……何か、すげぇ不似合いな気がする。
「バレンタインのお返しにな。アップルパイでも作ろうかと思って」
おいおい。手作りかよ。
「…………。マメだな」
噂に聞いた家事全般がヒューイの役割だってのはホントなのかもしれない。驚くオレを他所にヒューイは言葉を続けた。
「リアナは物を欲しがらないからな」
「興味ないのか?」
「いや、……こういう仕事をしてると、いつ戻ってこれるか解らないだろ。小物でも持ち歩くのには邪魔になる」
「……。現実的だな」
立場を理解してるのは解らなくもないけど、それって何かサミシクないか…?
「そうだな。それに欲しいものは解ってるんだ。それはまだ手に入らない」
そう言ったヒューイは微苦笑を浮かべた。人それぞれ何かしらある訳だ。
「アークも大変そうだな。リーもそう言うのが無さそうだ」
「…………」
よくご存知で。
リーが家族の様に慕ってるから、解ってて当然と言えば当然なんだけど、何か癪に障る。
「無理に何かを渡さなくても、必要な言葉を伝えるだけでも十分だろう。アークは少し言葉が足りないからな。それにいつまでも『子供』じゃない」
子供じゃない……か。
解ってるつもりではいるんだけど、つい『ガキ』だと言っちまう。
「まあ、頑張れ。あまり"気張り"過ぎると空振るぞ」
「……」
「これは経験談だ。じゃあな」
ヒューイは立ち上がると小さく笑った。つーか、失敗談ってことだろ、それって。
「……はあ」