『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第二部』-25
「クリス、聞こえるか?」
「…………」
返事は無い。ただ、ノイズが微かに聞こえてくるだけだ。
サブ・カメラはノイズが酷くなり、様子も判らなくなる。
「聞こえるなら聞いてくれ。断じて俺は、この場所を知らせたりしてない。通信が傍受されてたんだよ。俺も捕まる所だった。」
「……………」
やはり返事は無い。恐らく今は、何を言っても言い訳にしかならない。
「…………クリス……俺…やっぱりお前に惚れてる……」
「………」
本当に聞こえているのか怪しいが、それでもエリックは続ける。
「…お前がいくら人を殺しても、お前が生きててくれればそれで良いんだ……」
「……………たし……」
声が、聞こえた。クリスの、声だ。
「…あたし…………弾が切れなければ…きっとあんたを殺してた……今回みたく自分を見失ったら、次はあんたを殺しちゃうかも知れないんだよ……?怖くないの……?」
良かった、正気に戻っている―――エリックは安堵した。
しかし先ほどは、かなり危なかったらしい。
「…そりゃ…少しはな。だけど、気付いたんだ。もっと大事な事に。」
穏やかに、エリックは答える。
「……大事な……事…?」
「……惚れた女を守る事。…前にも言ったろ?」
「……………!」
少し照れながら、言葉を紡ぐエリック。
沈黙が、降りた。通信機のノイズが、酷くなる。殆どノイズしか聞こえない。
「クリス……?」
思わず、エリックは声をかけた。
すると、突然コクピットのハッチが開いた。
「…………馬鹿…!」
外の夕焼けをバックに立っていたのは、クリス。
泣き笑いのような表情を浮かべ、コクピットに飛び込んでくる。
「……なっ……!?」
驚くエリックをよそに、クリスはするりとシートの前方に回りこんだ。
さして広くも無いコクピットでそれをすれば……
「…ク…クリス………」
「………なに?」
戸惑うエリックの言葉に、エリックにぎゅうと抱きつくクリスが顔を上げる。
涙で赤く腫れた目。しかしもう、泣いてはいない。
その顔を見た瞬間。
「好きだ…。…エル…雷神の代わりにはなれないけど…お前を守る…幸せにしてみせる…」
切ない程の愛しさが込み上げ、エリックもクリスを抱き締める。
エルの名を聞いたクリスの瞳が、一瞬揺らぐ。だが……
「うん………!…ありがとう…………好きよ、エリック…」
エリックの胸に顔を埋め、クリスは極上の微笑を浮かべた。