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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第二部』-24

第十二話・闘い、そして……
《変後暦四二三年十月十三日》


「クリス!待て!違うんだ!」
 一撃を咄嗟に構えたシールドで受け止め、エリックは叫ぶ。
恐らくクリスは、エリックがこの場所をリークしたものと誤解している。
冷静な時の彼女なら気付いたかも知れないが、今は違う。
「うるさい!うるさいうるさいうるさい!」
 まるで子供に戻ってしまったかのように取り乱すクリスは、容赦なくエリックに銃撃を浴びせる。
そのことごとくをシールドで受け流しながら移動し、エリックは何とか決定打を防ぐ。
そうしながら、考える。
(あの様子じゃあ話を聞きそうに無い…とりあえず動きを封じてからか……。…でも…俺に出来るのか……?)
 相手はあのクリスである。
(それでも………やるしかない!)
 今のクリスは痛々しすぎて、見ていられない。
彼女を救えるのは、自分だけなのだ。その思いが、エリックに決断させる。
今のクリスは感情不安定、疲労困憊、慣れない機体、機体の損傷等の悪条件が重なっている。決して勝てない相手ではない。
「うおぉぉおおおお!」
 エリックは一声叫ぶと、攻めに転じた。
シールドの影からコ・モニタの映像を頼りにクリス機の腕を狙いながら、距離を詰める。
勿論、動き回る事も忘れない。
そして、撃つ。
動き回っているせいで、狙いが逸れた。銃弾はコクピットを掠めていく。
まずかった。まぐれとはいえ、もう少しでコクピットに直撃する所だった。
と、冷や冷やした瞬間。
クリス機の攻撃が、エリック機の持つライフルを撃ち抜いていた。シールドでもっとも守り難い部分だけに、防御できなかった。
手を巻き込んで爆発するライフル。恐らくクリスは狙ってやっている。
「さすがだな……っっ!」
 内心の恐怖を紛らわせる為に言いつつ、エリックは更に距離を詰める。
無意識にでも動く足でペダル操作しながら、相手の動きから着弾箇所を見極める事に意識を集中させる。今のエリックにはそれをかわす事など出来ないが、シールドで受け流す事ならなんとか可能だ。
そうやって受け流しながら、ペール?を走らせる。
ぐんぐん詰まる距離。火を吹くクリス機のライフル。受け流すシールド。
そして距離が五十メートルを切ったとき。シールドが砕け飛ぶ。
その破片に直撃された頭部カメラアイが、割れた。ディスプレイが画像を映し出ださなくなる。直ぐに胴体に設置されたサブ・カメラに画像が切り替わり、ライフルを構えたクリス機を映し出した。シールドが無くなった事ではっきり見えるようになったその姿は、容赦なくエリック機を捉えていた。飛び込むにはまだ少し間合いが遠い。一歩分、遅かった。
しかし予想に反して、ライフルから銃弾は飛んで来ない。
訳が判らないなりにとにかく走り、エリック機は勢いそのままにクリス機を押し倒す。
起き上がろうとするクリス機の腕を足で押さえ、胴体に膝をあてる。
これでクリス機は起き上がれない筈だ。ペール?に、上半身だけでワーカー一体を持ち上げるだけの馬力は無いのだ。片腕が無い同士、力は均衡している。
ワーカーのモーター音がこだまする。クリス機が、エリック機を持ち上げようとしているのだ。頭では大丈夫だとわかっているが、操縦者がクリスなだけに、安心できない。
響くモーター音。傾ぐ両機体。クリス機の腰が、浮いた。
クリス機が立った場合、勝てる見込みは無い。押さえ込めなければ、エリックの負けだ。
(負けない……!俺は強くなったんだ、あの頃の俺じゃないんだ!俺は……クリスを守るんだ!)
エリックの心に沸き立つ闘志。思いっきり、レバーグローブを前に押し出す。
かなりの抵抗があったが、構わずに全力で押す。ワーカーの腕と連動しているレバーグローブは、車でいうハンドルのようなものだ。
エリック機の腕に押さえ込まれ、クリス機の動きが封じられる。
そしてクリス機の腰部から、煙が上がった。モーターが冷却機能の限界を超えて過熱し、焼け付いたのだ。もう、動けないだろう。
闘いは、終わったのだ。


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