『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第二部』-16
第八話・シミュレーター
《変後暦四二三年十月十三日》
「……凄いな……お前…………」
訓練を終えたアルファを見ながら、エリックは驚きを込めて言った。
ディスプレイには大きく、『Ｂ+』の文字。ちなみに全訓練者の平均成績がＣ評価となっていて、Ｃ、Ｃ+、Ｃ++、Ｂ−−、Ｂ−、Ｂ…と上がり、最低Ｆから最高Ｓとなっているのだ。
つまり、先ほどまで操作も判らなかった素人に出せる成績ではないのだ。
「ハハハ、アリガトウゴザイマス〜！」
アルファはパタパタと手を振り、言って見せる。
ちなみにエリックの最高記録は、Ａ＋＋である。
「…ん、んじゃ、俺は隣のシミュレーター行くから。頑張れよ。」
さすがにこのまま見ているだけなのも癪なので、エリックは隣のシミュレーターへと移ろうとする。
「……アルファ、そろそろ今日のテストが始まります。」
丁度その時、アリシアがシミュレーターの中に声をかけてきた。
「ア、ハ〜イ！ソレジャア、マタ今度！」
「あ、ああ…またな。……って早いな。」
元気に答えてエリックに声をかけると、アルファはシミュレーターから出て行く。
見事な去り際だ。エリックが答える頃には、既にシミュレーターから出て行っていた。
取り残されるエリック。
いきなりがらんとしてしまった。
「ま、いいか……」
呟いて、エリックはシミュレーターを再起動させる。
アルファ達が居なくなろうと、結局する事は変わらないのだ。
シートに座り、レバーグローブに手を通す。
肘や腕の動きを兼用するこのグローブの握りは、慣れないと色々大変だ。
（少なくなくとも、昔乗った事があるんだよな…）
アルファの動きを見て、エリックはそう思う。
その間に、シミュレーター上には敵機が出現する。
今回の仮想訓練場所は、市街。
入り組んだ建物が並ぶ限られたスペースでのポイント取りが重要になる。
エリックの機体はシールドとライフル装備のペール?、相手はセラムが二体。
上級者用というやつだ。しかも毎回状況が変わるので、慣れは無い
今回は単独戦闘モードなので、味方機は居ない。
『ＧＥＴ ＲＥＡＤＹ』と、ディスプレイに大きく表示される。
そして、『ＧＯ』の表示と共に、シミュレーターの戦闘訓練モードが開始される。
ディスプレイの隅にあるカウンターが動き始め、時間を刻んでいく。
そしてエリックは、ディスプレイの中に引き込まれていく。
訓練開始地点は、とあるビルの前。
これから、何処かに潜んでいる敵機を見つけ、撃破するのだ。
勿論相手が先に自分を見つければ攻撃を仕掛けてくるので、注意が必要である。
エリックは辺りに気を配りながら、進んでいく。
待ち伏せというのもありだが、それでは時間がかかり過ぎる。
仮想空間内は二キロ四方を壁に囲まれた造りになっているが、それでもただ待っていては、敵機を見つけるのはかなり遅れてしまう。
敵を見つけたらすぐに動ける体勢をとりながら、大通りをビル沿いに進んでいく。
現実と殆ど変わらぬ状況を再現した仮想現実は、それなりの緊張感を与えてくれる。
その緊張感をむしろ楽しみながら、エリックはペール?を進ませて行く。
と、バックモニタに、交差する大通りを曲がって来る敵機の姿が見えた。
エリックは反射的に、ペール?を近くの路地へと隠す。
相手はこちらに気付いていたか？自問してみるも、答えは出ない。
とりあえず手にシールドの端に装着されたコ・モニタに回線を接続。それだけを通りに少しだけ出して、通りの様子を確認する。
ディスプレイに映し出されたのは、こちらに向かって来るセラム一機。
警戒移動はしているが、シールドを構えていない。つまり、気付かれて居ないという事だ。
距離は、三〇〇メートル程度。今装備しているライフルの有効射程は、三五〇メートル。
（ツイてる！）
好機と見たエリックは、ペール?を、ライフルを構えながら通りに飛び出させる。
セラムが慌てたようにシールドを構えようとするが、遅い。
ペール?のライフルは容赦なく、敵機のコクピット部を凹ませる。
さすがに射程すれすれのライフルの一、二発で沈みはしない。が、連射なら話は別だ。
衝撃で仰け反るセラムに近付きながら、撃つ。撃つ。撃つ。