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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第二部』-17

二〇〇メートル程まで近付いた頃。セラムのコクピットに穴が開き、青白いスパークと共に、セラムは崩れ落ちる。
だが勝利の余韻に浸る間もなく、バックモニタは背後の路地から現れたもう一機のセラムを映し出していた。距離、一五〇。
(銃声を聞きつけたか!?)
急いで振り返りつつシールドを構える。だが、遅い。
まるで先ほど倒したセラムの気持ちである。
セラムの持つマシンガンが、エリックのコクピットに狙いを定めている。
回頭が間に合わないと悟ったエリックは、思い切って横へ飛ぶ。そのまま元居た路地へ。飛ぶというのはなかなか高等テクニックで、一般のパイロットに出来る事ではない。
相手のマシンガンの銃口が火を吹く。
とっさの横っ飛びのおかげで、銃弾はコクピットには当たらなかった。
しかし、片腕…しかもライフルを持っている方の手を、銃弾は打ち抜いていた。
次いでライフルも貫かれ、手を巻き込んで爆発する。
路地に逃げ込んだエリックは、急いでペール?の体勢を立て直した。
(ち………)
 ライフルを持っていた方の腕は、もう使い物になりそうにない。
そして恐らく、この間にも敵はこちらに止めを刺すべく迫って来ている筈だ。
(……)
 じっと、相手が姿を現すのを待つ。待つ。…待つ。
もしかしたら回りこんで反対からくるのかも。とか、こちらが出て行くのを待ってるんじゃないかとか、色んな考えが頭を過ぎる。
それでも、待つ。
やがて、ワーカーの歩行音が聞こえてきた。少しずつ、近付いて来る。
そして、すぐそこまで来たと、エリックは判断した。
途端に、エリックはシールドを構えさせたペール?を、路地裏から突進させる。
すぐさま相手のマシンガンが掃射されるが、斜めに向けたシールドは銃弾を受け流してしまう。しかしそれでも至近距離からの銃撃には耐え切れず、シールドが砕ける。
だが、時間は稼げた。もう相手は目の前だった。
砕けるシールドの破片の中。ペール?は取っ手部分の残ったシールドで、思い切りセラムを殴りつける。シールドで目隠しをされていた分だけ狙いがずれた。
それは相手も同じことだった。掃射されるマシンガンの弾は、ペール?のコクピットを打ち抜く事は無かった。
そしてペール?の放ったパンチは、セラムのコクピットやや下を殴りつけていた。
轟音と共に、セラムが後ろにずれる。倒れない。ペール?の指が、手が、潰れた。
踏みとどまったと見られたセラムだったが、突然激しくがくがく振動すると、そのまま倒れた。
どうやらコクピット下部にあるバランサーリングを破壊していた様だ。
バランサーリングとはワーカーのコクピット下に設置されている、結構な質量を持つ輪の事で、それを回して、本来不安定なワーカーの二足歩行を安定させているのだ。
それが一部かけてしまったりすれば、重量のむらが生まれ、自ら倒れてしまう。
もっとも遠距離からの銃弾程度なら、その回転で弾いてしまうのだが。
ともかくエリックは倒れて起き上がれないセラムに駆け寄り、軽くジャンプして武器を持った腕を踏みつけて、潰す。コクピットも、何度も踏みつけて、潰す。
相手ワーカー戦闘不能の表示と共に、訓練は終了した。
評価は、A−−。まぁまぁという所だ。
「居た居た、そろそろお昼にしない?」
突然シミュレーターの中に入って来るクリス。
「うわっっ!いきなり入って来るなよ……違ってたらどうするんだ?」
 エリックは驚いて飛び退いた後、呟く。
「…あのね…その位、外からモニターで確認出来るわよ。そんな事より、お昼行かないの?」
「う……そうだったな……まぁそんな事よりもだ。丁度今終わった事だし、行くか。」
 クリスの回答にやっとその事に気付いたエリックは照れ隠し気味に言うと、さっさとシミュレーターを出て行く。
「あ、ちょっと待ってよ!もう!」
 そしてそんなエリックを、クリスは小走りに追いかけて行くのだった。


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