『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第二部』-15
トレーニング室。
部屋に入ったエリックは、ある人物に気がついた。
「よお、どうしたんだ?」
「ア、エリックサン……ナンカ暇ダカラ……訓練デモシヨウカナッテ……デモ操作ガ…」
「…………私も全く扱った事がありませんので……それと、IDパスもありませんし。」
その人物とは……そう、アルファである。その隣には、当然の如くアリシアの姿。
アリシアはよくわからないが、アルファの方は沈み気味である。
恐らく暇を持て余して、訓練に来たが、記憶喪失のアルファと研究員のアリシアでは、操作がわからなかった…といったところだろう。
もっとも、アルファはテストパイロットなのだから、知らないのはおかしいのだが…
加えて言えば、シミュレーターを扱った事の無い研究員も異様だ。
まぁ、操作が判ったところで、IDパスが無ければシミュレーターは使えないのだが。
「そっか。シミュレーター使った事無いのか……じゃあ、教えてやるからやってみるか?」
アルファに対して、理由の無い引け目を感じているエリックは、親切に言ってみた。
「エ?イインデスカ?…アリガトウゴザイマス!!」
一転して満面の笑顔で言うと、アルファはエリックの手を握ってぶんぶん振る。
「ああ、判ったから…離せ……」
エリックは苦笑しながら手を解くと、シミュレーターの中へと入る。
それに続くアルファとアリシア。シミュレーターの中は、ぎゅうと詰まる。
狭い。 さすがに三人で入る場所ではない。
「ちょい……アリシアは出てろ。外のモニターで見てれば良いだろ。」
「……はい。」
ため息交じりに言ったエリックの言葉に答えて、アリシアはシミュレーターの外に出て行く。先日の事もあるだろうし複雑だろうが、表情はやはり無い。
「よし、じゃあ始めるか。まずは、シートに座れ。」
アリシアが出た事で多少広くなったシミュレーター内で、エリックの講義が始まる。
ちなみにシミュレーターは、実際のワーカーのコクピットをほぼそのまま再現してある。
エリックはIDカードを差し込みユーザー認証をすると、コントロールパネルをいじり、シミュレーターの設定を行う。
するとシミュレーター内のディスプレイに、仮想空間の映像が現れる。
手っ取り早く言えば、シミュレーターは軍事訓練用のゲームみたいなものだ。
「それでこれでレベルと環境の設定、後は普通の操縦と同じだ。…やってみな。」
「ア、アノ……………」
もじもじと口を挟むアルファ。エリックは怪訝そうにアルファを見やる。
「操縦方法………判ラナイデス………」
「………………お前、本当にテストパイロットかよ………」
呆れたようなエリックの言葉に、アルファは半分涙目だ。
「ハイ……新型ハココトカニプラグヲ刺シテ、脳ノ命令ヲ直接伝エルノデ……」
そう言ってうなじにかかった髪をかきあげたアルファが見せたのは、金属質のカバー。
まるで体の一部のように、それはそこにあった。…いや、実際それは体の一部なのだろう。
恐らくカバーを外せば、その下には穴が開いているのだろう。
よく見れば、髪の隙間からあちこち、同じようなものが覗いている。
「そ……そうか……すまなかったな……」
「アハハ、気ニシナイデクダサイ。サイボーグミタイデ格好良イデショウ?ソレニ、博士ノ役ニ立テルンナラ本望デス。」
思わぬ事に息を飲みながら答えるエリックに、アルファは明るく笑いながら答える。
その明るさが、痛々しい。
「なんで…お前はそんなにしてまでワイザー博士とやらに尽くすんだ……?」
信じられないものを見るような目で、エリックはアルファを見る。
「ダッテ……僕ガ居ルノハ博士ノオカゲデスシ……ソレニ、ナッチャッタ事ヲドウコウ言ッテモ始マラナイデス!」
そう言って再び笑うアルファ。これは尋常ならざる強さなのか、唯の馬鹿なのか。
エリックにはもはや判別不可能だ。
「ソレヨリ。早ク操縦方法、教エテ下サイヨ!」
「ああ、わ、わかった……まずは両手をレバーグローブに入れて、それで腕と手の操作。んでペダルに足を固定して、足の操作だ。…後は習うより慣れろ!とりあえず右利き用で行くぞ。」
後半は半ば投げやりに操作方法をレクチャーし、シミュレーター上に敵機を出現させるエリック。
「エ?エ?エエェェェエエエ!?」
間抜けな声を上げながらも、アルファはシミュレーター上でワーカーを動かすのであった。