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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第二部』-14

第七話・クリス時々アルファ
 《変後暦四二三年十月十三日》


「エリック、朝食行くわよ、ほら早く!」
 その朝エリックは、クリスの声で目を覚ました。
「ん……ぅ…ん……ああ?」
 寝ぼけ眼をこすってエリックが起き上がると、寝台に身を乗り出しているクリスと、丁度目が合った。
間。
「な!?クリス!?なんでお前が此処に…ってそうだ…昨日来たんだよなぁ……」
 寝ぼけて落ち着くという一連の動作を一人でさっさとこなし、エリックはため息をつく。
クリスは突っ込みどころを失って残念そうだが、エリックは気にしない。
「んで、なんだよ?こんな朝っぱらから……」
 言って欠伸を一つ。
「だから朝食。あんたが居ないと、あたしも食べられないんだから。」
 つまりはタカリなのだが、クリスの態度はやはり大きい。
「……はいはい…行きゃ良いんだろ……っと………」
 エリックは寝台から降りると、ふらふら歩き出す。
「ほらほら、行くわよ〜!」
 そんな彼の背中をクリスが押し、二人は食堂へと流れていくのだった。
まわりの視線を集めながら。

 食堂。
「しっかし……さすがナビアねぇ…相変わらず配給一つとってもジュマリアとは大違い。」
「ん?……どうゆう事だ?」
 スプーンを口に運びながら呟いたクリスの言葉に、思わずエリックは聞いてみる。
勿論回りに聞こえないよう、ひそひそ気味だ。
とは言っても、食堂は随分騒がしい。人のテーブルの話など聞こえないだろう。
「ん〜……ジュマリアだと、こんなに量も多くないし、三食は食べられないもの。」
 クリスの語るジュマリアの状況は、エリックの予想とは大きく異なるものだった。
「今ジュマリアは、膠着した戦線を支える為の軍事支出で赤貧状態よ。先手を打って攻めようにも、少なくなった兵力を更に消耗するのが怖いしね。このままナビアが動かなくても、やがてジュマリアは破綻する……だからナビアも殆ど攻めては来ないわ…」
 思ったより危機的状況であるジュマリアに、エリックは驚きを隠せない。
「実際、あたしがいくら働いても間に合わない……ましてナビアにあんなのが出て来れば決定的だわ……だからあたしはそれを調べて……」
 あんなのとは、アルファの駆るアーゼンの事だろう。そして…言葉の続きは、エリックにも容易に想像できた。
恐らくクリスは、アルファとアーゼンを破壊するつもりなのだ。
「そうか………」
 心中複雑な思いを抱きつつ、エリックは答える。
クリスとアルファが闘い、どちらかが死ぬかも知れないのだ。
そうなれば、勿論エリックはクリスの味方をするつもりだ。
しかしアルファの辛さや恵まれない環境を知っているだけに、気が咎める。
「知り合い……?…まぁ、当分は調査のみよ。まだ良く分かってないってのが現状だし。第一、パイロットも見てみなくちゃどうしようもないし。」
そんなエリックの心境を察してか、クリスがフォローを入れる。
「ああ……そうだな………まぁ、知り合いって程のもんじゃない。」
 しかしいつかは戦う事になると判っているだけに、素直には喜べないエリック。
(いや、先延ばしにしても仕方無い。クリスにアルファの事を話すべきなのかもしれない。)
 エリックは考えるが、どうしても一歩踏み出せない。
「……」「……」
 舞い降りた沈黙。食事の音だけが響き、周りの喧騒すら遠く感じる。
「それじゃ、俺はトレーニングルーム行って訓練するから、調べ物頑張れよ。」
「うん、じゃあ昼食近くなったらそっち行くから。またね。」
 やがてエリックの決心も待たずに食事を終えた二人は、互いの目的地に向かって歩き出した…のだが。
「……って、俺はメッシー君か……?」
 気付いて振り向いた時には既に遅し。クリスは既に、何処かへと行ってしまっていた。


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