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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』-6

第三話・出会い
《変後暦四二三年四月?日》


 「………ん…ぅう……」
 エリックが目を覚ますと、まず最初に体の痛みが知覚できた。
あちこちが鈍痛を訴えている。が、まぁそこまで酷くは無い。
そして次に分かったのは、先ほどから目を開けている筈なのに何も見えないという事だ。
「え………?」
パニックを起こそうとする頭を必死に落ち着け、彼はそれまでの事を思い出す。
「……ここは、ワーカーの中か……?」
 記憶を辿ってみると、そうなる。
「それじゃあコクピットライトを付ければ……」
 不安を紛らわす為か独り言を連発しつつ、手の感触を頼りにスイッチを見つけ、押す。
パッと、ライトがついてコクピット内の様子が照らし出された。
計器類のインジケーターが何も点いて居ないし、ディスプレイにカメラアイの捉えた画像も何も無し。コンソールをいじっても反応なし。どうやら壊れてしまっているらしい。
コクピットライトは電気系統が別なため、活きているのだ。
「ちょっと待てよ……今どこだよ……?」
エリックはとりあえずコクピットの扉を開けようと、コンソールに手を伸ばす。
「……って、壊れてるんだよなぁ……」
 頭を抱えて蹲るが、そこである事を思い出す。
「そうだ!手動で開けられるんだった。……確かこの辺りに…?」
 呟きながら、コクピットの扉近くにある非常用コックを引く。
と、プシュッという音がした。
「よし、これで……よっっと…」
 エリックは息を吐いて扉を押す。
するとガコンと重苦しい音を立てて、扉は外へと押し開かれた。
「よし……」

 エリックがそのまま外に出て扉近くに立ってみると……外も暗かった。
いや、全くの闇という訳でも無く、微かな明かりが上から差し込んでいる。
ワーカーは、どうやらそこまで損傷は酷くなさそうだ。
周りはまだ、よく見えない。
上を見上げると、遥か上の方で木々の間から月が顔を覗かせていた。
つまり……
「あそこから、落ちてきたのか……」
「そうよ。」
 下の方から返事が返ってくる。
凛とした響きを帯びた、まだ若い女性の声だ。
「そうか…………って、え!?わっ!」
まさか返事が返ってくるとは思っていなかっただけに、エリックはびくっとして、危うくワーカーから落ちる所だった。
「うわっとっとっと……!ふぅ。」
 なんとか踏み止まったエリックに対して、更に声が掛けられる。
「何やってんのよ?さっさと降りて来たら?」
 とりあえず人が居た安堵に、エリックは素直にワーカーの壁面を伝って下に降りる。
少しずつ暗さに慣れてきたエリックの目に、人影が映った。
人影は、降りてきたエリックの目の前まで歩いて来た。
「あんたは……?」
 歩いてきた人影に、エリックは尋ねる。
「人に尋ねる前に、自分から名乗るのが礼儀じゃない?」
 即座に言い返され、エリックは思わず狼狽する。
声からしてエリックと同い年か少し年下のようだが、全く遠慮が無い。
それでいながら、エリックとの必要以上の接触を拒んでいるようにも取れる。
だが会話的に見れば、そこまで変な答えではない。むしろ常識が通じる相手に出会えて、幸運だとも言えるのではないか?そう考えたエリックは、改まって答える。
「俺はエリックだ。」
「あたしはクリス。」
 またもや即座に返される。
「あ〜……そ、それで……ここは何処なんだ?」
言葉に詰まったエリックは、とりあえず疑問に思っている事を聞いてみた。
「見ての通りよ。シイル基地から約六キロ、深さは……そうね。三十メートルってところかしら。かなり埋まっちゃってるけど、どうも変前の地下都市みたいね。もっとも、まだよく調べては居ないんけど。」
 やや早口で、クリスは答える。
ワーカーの全長は平均七メートル、かなり深い穴だ。
そしてそれを聞いたエリックの額に、一筋冷や汗が流れる。
何故先程から気が付かなかったのだろう。この女性の所属に。


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