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スプーン・ポジション
【女性向け 官能小説】

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隣のオンナ-7


煙は相当出ていたが、炎そのものはもともと小さかったようで、火は一瞬で消えた。


「……はあ……」


俺は一気に脱力して、その場にヘナヘナと座りこんだ。


「……………消えた?」


玄関のほうからさっきのパジャマ女が恐る恐る顔を出す。


「……消えたもなにも……見りゃわかるでしょ……」


それよりも、部屋の中のもの全てが消火剤にまみれてしまった惨状に、俺は呆然としていた。


独りぼっちの俺にでも、いや、こんな俺だからこそ、大切にしているものがここにはある。


そしてそれは、汚れたら買い換えれば済むというような簡単なものではないのだ。



「……見りゃわかるでしょって……あんた……自分が何しでかしたかわかってるの?」


俺の不遜な態度が気に食わなかったらしく、女がムッとした口調になった。


「――わかってるよ……てか、だいたいあんた誰だよ」


イラッとしながら改めて正面からパジャマ女の顔を見る。


しゅっと鼻筋の通った美人ではあるが、眉間によったシワと銀縁眼鏡がいかにも神経質そうだ。


完全に上から目線の口調だが、年齢はおそらく俺とさほど違わないであろう。


「あたしは―――あんたの隣に住んでる天野!―――ま、引っ越しの挨拶もしに来ない非常識な人は知らないでしょうけど」




ボヤを出したのは確かに俺が悪いかもしれないが、思いやりの欠片(かけら)もない高圧的な態度についカチンときた。


挨拶の件も、不動産屋からこういう単身者むけのアパートに住んでいるのは学生が多いと聞いていたから、かえって面倒がられると思ってあえてしなかったのだ。


「―――あんたさ、人のことよく知りもしないで非常識って決めつけんなよ」


「あんたこそ、こっちが名乗ったらまず名乗るのが当然でしょう?だから非常識だって言ってるのよ」


「るせぇな……木村だよキ・ム・ラ」


「……何その態度?―――あんたのせいで火事になるとこだったのよ?昔から『ボヤを出したら三代村八分』って言うくらい、火事ってのは罪が重いのよ?」


「村八……江戸時代かよ」


「……あんたねぇ」


女がまた何か言いかけた時、つけっぱなしだったテレビのほうから突然なまめかしい喘ぎ声が聞こえてきた。


『あぁっ……あぁん。部長っ……イっちゃうぅん……』


「……は?」


女が眉間に更に深いシワをよせてリビングのほうを覗き込む。


―――ヤバイ、と思って慌ててテーブルの上のリモコンをひっつかんで停止のボタンを押したが、完全に手遅れだった。


画面いっぱいに映し出されたエロ画像。机の上に並んでいる「パンスト弄り」と「淫辱のオフィス」のレンタルケース。そして極めつけのボックスティッシュ。


俺が今ここで何をしていたのか一瞬でバレてしまう物的証拠を全部見られてしまった。


「……最っ低……」


女は汚いものでも見るような目で俺を睨み付けた。


「……………」


反論したいことは色々あったが、あまりにも不利な状況だったため、俺は仕方なく口をつぐんだ。





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