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スプーン・ポジション
【女性向け 官能小説】

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隣のオンナ-8




「と、とりあえず………不動産会社にはすぐに連絡しなさいよ。……そもそも……なんで電子レンジから火が出るの?何か変な物でもあっためたんでしょう」


「……変な物ってなんだよ。普通の弁当あっためただけだし……」


「―――弁当?」


女は怪訝な表情で、くすぶっている電子レンジの中を覗き込んだ。


「………あ、あんた……アルミカップ取らないであっためたんでしょう?ここのお弁当はさくら漬けがアルミカップに……」


そこまで言いかけて女はハッと息をのみ、俺の顔を見た。


また何か嫌味を言われるのだろうと身構えたが、女はひどく驚いたような表情で俺の顔をじっと見ている。


「………は?何?俺の顔になんかついてる?」


気持ちが悪くなってそう尋ねると、女は急に我にかえったように俺から顔を背けた。


「と、とにかく……こ、これからは二度とこんなことがないようにしてよね」


言いたいことだけ言ってしまうと、俺の部屋を滅茶苦茶にしたことは一言も謝らず、女は急に逃げるような小走りで隣の部屋に帰ってしまった。


「―――なんだよ……あの女」


俺は大きなため息をついて部屋をぐるりと見渡した。


派手に割れたガラス窓と焼けた電子レンジ。
そして消火剤が散乱した部屋。


あーあ……。


なんで俺ばっかりがこんな目に合うんだよ―――。

いや……なんで俺はこうなっちまうんだろう―――。




部屋の隅に目をやると、引っ越して来たその日にお守りのつもりで壁に貼った一枚の絵が、いつの間にか床に落ちてしまっていた。


薬剤にまみれてすっかり汚れてしまったその絵には、ネクタイをきちんと締めた俺の姿がクレヨンで丁寧に描かれている。


俺は膝まづいて、ゆっくりと画用紙を拾い上げた。


覚えたばかりの拙いひらがなで書き添えられた精一杯のメッセージ。



「ぱぱ、おしごとがんばってね」



邪気の無いその言葉が、今の俺にはひどくこたえた。




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