加柄割人 VS 嫌いなアイツ-2
あまりの臭さにボクの手は一生臭いままだと思いました。大好きなメロンを食べる時でも、味はメロンでもにおいは臭いんです。チョコレートは甘くて臭いんです。3歳児にはこれまでに経験した事が無い大事件でした。
ボクは臭いにおいで頭がいっぱいになり、泣いてしましました。ボクより弱いと思っていた虫君はとんでもなく強かったです。……泣かされましたから。
「どうしたの? 割人君」 泣いているボクを見つけて、令子先生が来てくれました。優しく声をかけられたので少し安心しましたが、臭いのには変わりありません。
「く〜しゃ〜いぃぃ−」
とボクは泣きながら令子先生に訴えました。
「どこがなの?」
やっぱり令子先生は優しかったです。おかげでとても安心できたので、ボクは少し泣きやんで令子先生に臭い手を出しました。
「くさっ!!」
ボソッと呟きました。しかも眉間と鼻に皺まで寄せていました。
ひどい言葉です。3歳児の心には深く傷つきます。気にしてたので……。
優しい令子先生が優しさを忘れて言うほど、ボクは臭いんだと思いました。
また大泣きです。
「臭くないよ、全然臭くないよぉ……」
と令子先生は言いましたが、いくら3歳児でも現に臭いんですから絶対ウソだと分かります。
「じゃあ、手を洗いに行こっ。ね、割人君?」
令子先生はあたふたしていました。
ボクは鼻をすすりながら令子先生に連れられて水道に向かいました。その間もずっと臭くて鼻がモゲそうでした。
「はい、手を洗おうね」
ボクは自分で洗っていたら、令子先生も手伝ってくれました。石鹸の匂いがしました。臭いにおいもしていました。
「はい出来た。もう臭くないわよ」
令子先生はボクの手をにおっていいました。でもまだ臭います。ボクは手を嗅がなくても分かりました。
「くしゃいっ!」
ずっとにおっています。また泣きます。また手を洗います。またにおいます。まだ臭いです。また泣きます。また……。
「もう、いい加減にしてちょうだいっ!」
いつも優しい令子先生が怒ってしまいました。ボクは自分が臭いのと怒られたので大泣き再来です。
「どうしました令子先生。大きな声を出して?」
園長先生でした。
「園長先生。この子が、たぶんカメムシと思うんですけど、手が臭かったので洗ってあげたんです。もうにおいは落ちているんですが、まだ臭いって聞かないんですよ」
令子先生は呆れた顔で園長先生に言いました。
「手を出して?」
園長先生も優しい人でした。だからボクはまだ手が臭いと信じてもらえると思いました。
「大丈夫よ、石鹸のいい匂いがするわ」
信じてもらえません。もう強烈なにおいが頭にこびり付いて離れなくなったんだと幼心に思いました。みんなに見つかったら、あだ名は“あの三文字”で決まりだと直感しました。
3歳にしてお先真っ暗になりました。……その時は一生臭いままと思っていたので……。
もうお気付きの人はいると思いますが、虫(カメムシ)は手と鼻ににおいを付けたようでした。この時は分かりませんでしたが……。