「遠い隔たりと信じられない近さ」-26
「だけど、おまえの夢が現実になれば、今度は支える側になれるんだ」
ならではの考え方に、アイコは身体が軽くなった気がした。
「なれますかねえ?」
「なれるとも!」
クルマが施設の前に止まった時、アイコの中から迷いは消えていた。
「ありがとうございました!」
はつらつとした声を聞いて、安西は目を細める。
「自分のペースでな」
「ハイ!」
「それと、友だちは大切にな。一生の財産だから」
それだけ言うと、クルマは走り出した。
アイコは、遠ざかるテールランプを見つめていた。
(先生の思いも聞けて…これも、アキくんのおかげだわ)
躍りだしたい。それほどに、気分は高揚していた。
晶とアイコが友だちになってひと月が過ぎた。
安西の一件を経て、2人は何でも話せるほどの仲になった。
『じゃあ、今日も先生に送ってもらったの?』
『うん。わたしだけじゃないけど、教えてもらってる』
『どんなこと考えてもらうの?』
『今までどうりよ。過去の問題から、重要な部分を繰り返し覚えたり、問題文をきちんと理解する練習したり…』
『大変だね』
『でも、1人でやってた時より順調なの。先生も、このまま続ければ大丈夫だろうって』
『受験まであと1ヶ月でしょ。良かったね』
『先生はそう言ってくれるけど、分からないわ』
『アイちゃんの大好きな先生が言ってんだから、大丈夫だよ』
晶に他意はなかった。思ったままに書いたのだが、アイコの方はそう採らなかった。
『アキくん!突然、何を言うの』
『えっ?何がだめなの』
『わ、わたしが先生のこと大好きだって…』
『違うの?この頃、ずっと先生のことばかりだから、ぼくは好きなんだろうなあって思ったよ』
『それは…あれだけ親身になってくれれば、好意くらいは』
『なんで嘘つくの?』
『嘘じゃない』
『嘘だよ。先生と仲直りした日から、アイちゃんの手紙は変わったもん。
特に先生のことを書いてる部分は、アイちゃんの笑顔が見えるようだよ』
『本当に?』
『そうだよ』
アイコは会話の中で、隠れていた気持ちに気づかされた。