sweet chocolate-8
「はい。人事規定を確認したんですが社内恋愛についての規定もないですし、実際社内恋愛の末結婚されても同じ部署内でしばらく働き続けたカップルの前例も数件ですが存在しました。鈴木自身この仕事にやりがいをもっているようですし、オレ自身、鈴木はこの営業所に必要だと思っています。しばらくは一緒に働くことを認めていただけないでしょうか」
え?しゅーちゃんってばいつの間にそんなことまで調べてたの?
「わかった。オレとしてはむしろそうしてもらえるとありがたいと思うから上には掛け合ってみる。みんなもそれでいいか?」
「もちろんです」
みんな口々に賛成してくれた。ただ一人、異動になるコータくんを除いて。
「じゃぁ、とりあえず祝賀会だな。よし、コータお前幹事やれ」
「えぇぇぇっ。オレの送別会は?」
「お前の送別会はついでだな。終わりよければすべてよし、だ。幹事を立派に勤め上げてから異動しろっ」
「ひどいっすよー、みんな。修平さんもチカさんもなんとか言ってやってくださいよー」
「幹事まかせたぞ、コータ」
「よろしくね、コータくん」
「チカさんまでひどいじゃないっすかー。っつーか二人ともいつまで手握ってるんすか」
「いーじゃないか、手くらい、なぁ」
「そうだ、そうだ。航太、男のヤキモチはみっともないぞー。お前だって異動先で可愛いおねーちゃんみつければいいだろ」
「でもいじられキャラの航太がいなくなると不便だなぁ」
「確かに」
なんだかコータくんが気の毒になってくる。
「あ、ちなみに人員の補充はないそうだ」
「へ?」
「トレードじゃないんですか?」
「いや、トレードなんだが、××支社から異動してくる人は支店に取られた。支店で一人定年退職されるんでな」
「えぇっ?じゃぁオレが担当してた客先とかどーなるんすか?」
「とりあえず修平が面倒見るから大丈夫だ。お前は何にも心配しなくていい」
「ってオレっすか?」
「修平さんなら安心っす」
「いや、オレはお前の尻拭いで謝りたおさなきゃならないと思うと不安だよ」
「修平さんまでひどいっすよー」
最後の最後までコータくんがイジられ続けてくれたおかげで、私たちカップルはそれほど冷やかされずにミーティングを終わることができた。もしかして、しゅーちゃん、そこまで計算してこの話題切り出したわけじゃないよね?
3月1日付で異動になってしまうコータくんと一緒にしゅーちゃんは出かけてしまった。ミーティングが終わればみんなそれぞれの客先へと出かけてしまう。残された私はいつも通り一人留守番しながら業務を片付けていく。
昼休みになっても誰も戻ってこないので急いでコンビニでお昼ご飯を調達して営業所に戻る。携帯を見るとしゅーちゃんから一緒に帰ろうとメールが入っていた。そっか。もう堂々と一緒に帰れるんだ。なんだか嬉しいな。あれ?着信。実家からだ。珍しいなこんな時間に。
「チカちゃん、結婚するってほんと?」
「へ?どうしたの突然。っていうかなんで知ってるの?」
「鈴木修平さんからお手紙いただいてね。近いうちに挨拶にいかせて欲しいって。お父さん息子が出来るって大喜びよ?年末にカニ一緒に食べるって言ってたカレでしょ?早くお会いしたいわ」
暖かくなったら連れて行くと言ったらこっちに出てくるという。もう日程まで3人で決めたらしい。ぐうの音もでない。ご丁寧に今日の朝プロポーズするから、昼休みまでは黙っていて欲しいとお願いまでしてあったらしい。恐るべし、鈴木修平…興奮冷めやらぬ義母にまた電話するから、と電話を切ると今度はしゅーちゃんのお姉さん、陽子さんから電話。
「チカちゃん!ありがとう。修平もらってくれるってホントに嬉しいわっ」
もらうってえっと…もらってもらうのは私のほうじゃ…
「ウチはもう両親いないから私たちしかいないけどこれからもよろしくね。近いうちに遊びに来てね、絶対よ?」
とこれまたテンション高い陽子さんとの電話を切ったらもう昼休みも残りわずかで慌ててお弁当を食べた。
珍しく定時に戻ってきたしゅーちゃんと営業所を後にする。連れてきてくれたのは、クリスマスに亮太くんと3人で乗った観覧車。バレンタインということもあってカップルでちょっと混み合っていたけれど不思議と待っている間も寒さをそれほど感じなかったのはやっぱり隣にしゅーちゃんがいてくれたおかげだろうか。
「ねぇ、異動するのがコータくんだっていつ知ったの?」
「昨日。所長から航太の客先引き継げって言われてさ。所長にはその時結婚のことも話しておいた。これ降りたら役所いかないか?入籍しよう」
「もしかして婚姻届も用意済ですか?」
「もちろん。保証人欄は所長とねーちゃんに書いてもらってあります。あとはチカがサインしてくれるだけ。チカの戸籍謄本もお義母さんに協力していただいて入手済みです」
「ほんと…しゅーちゃんにはかなわないよ」
「イヤ?」
「ううん、イヤじゃない。びっくりの連続だけどね」
「あともうひとつサプライズ。もうすぐてっぺんだから、ほら、左手出して目閉じて。一緒に選ぶものかもしれないけど、驚かせたかったから。気に入ってくれるといいんだけど」
薬指に冷たい感触。目を開けて私好みのぴったりのリングにまた驚く。
「ほら、オレにもして」
「はい…」
「落ち着いたらちゃんと結婚式もしような」
「うん。しゅーちゃん、ありがとう…」
「ったく、泣くな。ほら、コレ食べとけ」
そう言ってしゅーちゃんが差し出したのは甘い甘い、チョコレート。これからも2人で甘い毎日を送っていけますように…
…the end