sweet chocolate-4
「は?はい??だ、だって明日も仕事ですよ?」
「仕事だからラブホ。チカの部屋やオレの部屋だとゆっくりしたくなるだろ?ラブホなら時間制限あるしな。それにチカの好きなエロビデオも観れるぞ」
「ちょっ。ご、誤解です、ソレ」
「一緒に風呂も入れるし、どんだけ声出したって平気だし。うん。ラブホ行くぞ、ほら」
「ほらって、や、だってそんな。準備とかしてないですし…」
「準備って何?」
「え…えっと下着とか…」
まさかこんな展開になるなんて思ってないから、今日は気合が入ってない。ベージュのモールドブラにシンプルなシームレスのショーツだ。とてもしゅーちゃんに見せられるような下着ではない。
「そんなもんどうせすぐ脱がせるから関係ない」
身もフタもないなぁ。オトメゴコロがわかってないというか…
「何?それともチカはしたくないの?」
「そ…そんなことはないですけど…」
「じゃぁ、決定。早く食わないなら、オレが食う」
「あ、ひどいっ」
どうやら私に拒否権はないらしい。しゅーちゃんはスピードを上げてお好み焼きをたいらげていく。でも、ちょっと嬉しかったりする。したい、って思ってたのは私だけじゃないんだ。しゅーちゃんも同じ気持ちでいてくれたのが、嬉しい。慌ただしく食事を済ませると向かったのは最初にしゅーちゃんと一つになったラブホ。他にも何軒かあるけれど、なんとなく同じホテルへ。手をしっかりつないで、寄り添って歩いて。あの時は1部屋しか空いてなくて選びようもなかったけれど、今日はいくつか空きがあって、しゅーちゃんがパネルを見て選んだ部屋へエレベータで向かう。あの時と同じようにドキドキしてる。
「そんな物欲しそうな目で見るなよ。ここで押し倒すぞ?」
物欲しそうなって抗議しようとしたら唇を塞がれた。ドアが開いて唇も離れると、しゅーちゃんが笑う。部屋に入って扉を閉めた瞬間、またキス。強く抱きしめられて、壁に押し付けられるような激しいキス。
「一歩間違うと職場で襲いかかりそうで怖いんだけど」
「ちょっ、そ、それは勘弁してください」
息苦しくなって離れると、しゅーちゃんがそんな怖いことを言う。
「まぁ、しないけどな」
「あ、当たり前です」
靴を脱いで中に進むしゅーちゃんのあとを慌てて追いかける。荷物を置くとまたキス。手首を掴まれて、しゅーちゃんのソコに誘導され、手のひらを押し付けられる。
「もうガマンの限界」
スーツの上からでもわかる、はっきりと固くなったソレに驚いて唇を離すと、しゅーちゃんはそう言って照れたように笑う。
「風呂、準備してくるからチカはそこに座ってエロビデオ観てて」
「や、だから観ませんって」
「あ、観たら電マでいじめて欲しくなっちゃうか」
「ちがっ。もうっ、しゅーちゃんのバカっ」
しゅーちゃんは着ていたコートとスーツの上着をソファに脱ぎ捨てるとバスルームに消えていく。部屋に取り残された私はそれを備え付けのハンガーにかけ、自分もコートを脱いでもうひとつのハンガーにかける。もう。こんなことになるんだったら可愛い下着にしとけばよかったとちょっと後悔。
「チカ。あ、服、ありがとな」
「ううん」
「煙草、吸ってもいいか?」
「もちろん。コーヒーでも入れますか?」
「あぁ、頼む」
そう言うとスーツのポケットから煙草を取り出して、ソファに腰掛ける。組まれた長い脚。煙草に火をつける仕草。煙を吐き出す様。どれも格好いいなぁとみとれてしまう。
「どうした?」
「ん?格好いいなと思って」
「…おだててもチョコレート作んねぇぞ?」
「なーんだ、残念」
別におだてたつもりじゃないんだけどな。でも照れたしゅーちゃんも好き。お湯を沸かす準備をして、しゅーちゃんの隣に座る。
「チカ。もしオレが異動になったら、どうする?」
「え?どうするって…」
異動しないでください、なんて言えるわけもないし。そりゃ、一緒の職場にいたいけれど。お互い会社員だし、異動がある職場だし、会社が決めた決定事項に背くなんて基本的にできないよね。
「しゅーちゃん、異動するの?」
「いや、まだわかんないけどさ。今のところから通えるところならいいとして、もしオレが遠くに飛ばされたらチカはどうするのかな?って思ってさ」
どうする、って言われても、どうすることもできないよ。
「もし、そうなったらしゅーちゃんは、どうしたいの?」
別れる、って言われたらどうしよう。緊張で心拍数が上がっていく。
「できれば、連れて行きたい。でも現状じゃ厳しいと思う」
「え…?」
「今ウチの営業所にチカは必要、ってこと。まだ異動してきて1年経ってないだろ?それに今の仕事楽しいんだろ?」
「う、うん…」
「あくまでもまだウワサの段階だから、決定じゃないけど。ウチの営業所から1人は異動することになるらしい。別の支社から家庭の事情でこっちへの異動を希望してるヤツがいるらしくてさ。その人とトレード的な感じで異動が必要らしいんだ」
「そうなんだ…で、その候補がしゅーちゃんってこと?」
「あぁ、ポジション的にもな。オレは独身だから転居を伴う異動対象者だし」
「そ、そっか…」
「チカ連れていくとなると、チカに仕事辞めてもらうことになっちゃう、と思ってさ」
静かに吐き出される煙。しゅーちゃんと一緒にいられるのなら、仕事は辞めるのは仕方がないとも思う。未練がないわけじゃないけれど。でもそうなったら今度は私の後任人事の問題が発生する。たぶん、しゅーちゃんはそのことも心配してるんだと思う。だからさっき、仕事楽しいかって聞いたんだ。