演劇部バレンタイン公演-2
放課後、演劇部の部室に行くと
「美咲先輩また一緒に出来るんですね!」
真っ先に声をかけてくれたのは松岡葵(まつおかあおい)君だった。彼は学校祭の公演の時に私の友達役(女子)を演じて好評を得ていた。
「うん!お手伝いする事になったんで、またよろしくお願いね!」
「こちらこそよろしくお願いします!」
葵君は深々と頭を下げた。
「また同じ舞台に立てるんですね!」
「私達ずっと待っていたんですよ!」
学校祭の後、毎日のように私を演劇部に勧誘に来ていた後輩達が嬉しそうに集まって来た。
「今度は何をやるの?」
私が尋ねると
「私達もまだ聞かされていないんです....」
少し不安げに答えた。柏木先生は毎回無茶な事を部員達に要求してくるみたいで、今度は何を言い出すのかみんな不安だった。
「みんな揃っているか?」
柏木先生が麻里を従えて部室に入って来た。
「柏木先生よろしくお願いします」
私が言うと、先生は私を見て
「北原!来てくれたか!」
「ハイ!よろしくお願いします!」
私は頭を下げた。柏木先生は頷いた後、演劇部員を見て
「今度の公演は、これをやろうと思う....織田頼む....」
「ハイ....」
麻里はパソコンを立ち上げてDVDをセットした。パソコンの画面に映し出されたのはAKBだった。
「君達にやってもらいたいのは、ステージと客席が一体となったこの公演の再現だ!」
「..........」
驚きのあまり誰も声を出せなかった.....
「まさか俺達に女装してステージに立てと.....」
恐る恐る男子が尋ねると
「いくらなんでもそこまでしろとは言わない!ステージにたつのは女子だ!男子は客席で声援を送る役だ!」
男子達にホッとした空気が流れた。
「AKBといえば総選挙....三年生に投票してもらって立ち位置を決める事にする!」
そう言って先生は部室を出て行った。
「美咲先輩を精一杯応援します!」
葵君が嬉しそうに話しかけてきた。
「やめてよ!後ろのほうにいる私なんかより、センターに立つ人にしてよ!」
「何言ってんですか!センターは美咲先輩ですよ!」
「そんな事ないよ!葵君こそまた女装しなければならなくなったりして....」
「そんな事あるわけないですよ!」
「そうかなぁ....」
「そんなふうに言われると不安になるじゃないですか!」
「その可能性がないわけではないよ!」
麻里が私達の会話に入って来た。
「織田さんそれはどういう事ですか?」
「これ総選挙のポスターの見本なんだけど....」
麻里がポスターを広げると、そこには女子部員と一緒に私だけでなく、学校祭の公演の時の女子高生役の葵君の写真も載っていた。
「なんで僕がここに載っているんですか?」
「なんでって....可愛いからに決まってるじゃないの!!」
「何言ってるんですか!僕は男ですよ!」
「でも...この写真はどこから見ても女の子よ!あなたも知っているでしょう!あなたのファンクラブがある事を....そしてそこに入っているのは男子が多い事を!ファンの期待を裏切るわけにはいかないわ!」
「そ...そんなぁ....」
「文句があるなら柏木先生に言ってね!葵君を入れるように言ったのは柏木先生なんだから!」
葵君はガックリと肩を落とした。
総選挙は三年生の投票により行われ、公正を期すため朱羽高校バレンタイン祭(三年生の送別会)実行委員会が監督する事になった。開票結果は五日後の昼休みに発表される事になった。発表されるのは上位三人だけである。この三人を中心にフォーメーションが決められる。そして一位になった人がセンターになるのである。ダンスはAKBのを参考にして、創作ダンス部の中田先生がステージの広さを考慮して作ってくれる事になった。歌は音楽の山崎先生に指導してもらう事となった。その後すぐダンスと歌のレッスンが始まった。