チャリンコに乗ったオウジサマ-5
食事を終えて、一緒に歩いて陽人くんの部屋へ向かう。駅の反対側のエリアに陽人くんの住むアパートはあった。
「狭いし、散らかってますけど」
「お邪魔します」
ワンルームのその部屋はきれいに片付けられていた。クッションの上に座るように案内され、陽人くんがコーヒーを入れてくれた。
「インスタントですけど…」
「ありがとう。美味しいよ」
そう言うと照れたように笑う。カワイイ。少し話をしたあと、陽人くんが言った。
「冬子さんごめんなさい。オレ、シャワー浴びてきてもいいですか?」
「うん。どうぞ」
仕事終わって疲れてるんだもんね。待っている間TVでも観ててくださいとリモコンを渡される。
「それとも一緒に入りますか?」
「へ?い、一緒???」
「冬子さんほっぺ真っ赤ですよ、カワイイ」
「や、やだ。からかわないでよ」
「からかってないですよ。一緒に入ってくれたら嬉しいなぁって思ったんですけど、ウチの風呂じゃ狭すぎるからとりあえずオレ、入ってきますね」
「う、うん…」
やだもう。心臓バクバクしてる。情けないなぁ。さらっとそういうこと言うなんて想像もしてなかったけれど。付き合うってことは、そういうこともアリ、なんだよね。
『いーじゃん、年下の男の子をイチから自分好みのセックス教え込んでいけば。若い男の子なら回復力あるしな、腰の動きだってキレがあるだろうし何度でもイカせてくれるぞ?』
ふいに哲さんに言われた言葉が頭の中で蘇る。うわっ、何考えてんだ?私ってば。自分好みのセックスを教え込むっていっても自分好みのそれがどんなものなのかなんてわかんない。哲さんと元夫しか知らないのだ。しかも二人とも年上だったし。っていうか何ヤる前提で考えてんの?陽人くんだってまったりしようとは言ったけど、一緒にお風呂入ろうとは言ったけれど、エッチしようだなんて一言も言ってないじゃない。冬子、アンタどんだけ欲求不満?
「冬子さん?」
そう呼ばれて振り向くと、シャワーを浴びて出てきた陽人くんが不思議そうな表情で立っていた。さっきとは違うTシャツとジーパン。半袖のシャツから見える腕にキュンとしてしまう。
「陽人くん、何か部活やってたの?っていうか半袖寒くない?」
「今シャワー浴びたばっかだから寒くはないですけど。寒くなったら冬子さんにあっためてもらいます。部活はバスケやってましたよ。インターハイとか目指す感じじゃなくてゆるーく玉遊び的な雰囲気でしたけど」
「そ、そうなんだ」
「あ、冬子さんやっぱりほっぺ真っ赤。もしかして熱あります?」
おでこにぴたっと手を置かれる。距離が近い。近すぎる。情けないほどドキドキしてるのがバレちゃうじゃない。
「な、ないよ」
「冬子さん可愛い。キス、したいって言ったら怒りますか?」
やだ。その表情は反則だと思うんですけど。アタシなんかよりずっと陽人くんのほうが可愛いんですけど。
「…怒らないよ」
「キスだけじゃ止まらなくなっちゃっても、ですか?」
そ、それって…したいって思ってくれてるってこと、だよね?何も言えずに頷くとふわっと陽人くんの腕の中に包みこまれた。
「ずっと、こうしたかった…」
そっか。ずっと思っていてくれてたんだ。なんだか嬉しい。私も陽人くんの背中に手を回す。陽人くんの胸に耳をつける。トクッ、トクッと規則正しく刻まれる音。ぬくもり。ずっとこうしていたい、と思ってしまう。
「冬子さん?」
「ん?」
名前を呼ばれて顔を上げるとすぐそこに陽人くんのちょっと緊張した笑顔があった。少しずつ近づいてくる唇に目を閉じる。触れ合う唇。柔らかくて、気持ちいい。どのくらい触れ合っていたのかわからないけれど、静かに離れていくと寂しいとさえ思ってしまう。
「冬子さんとキスしちゃった。夢みたい」
そうおどけてみせる陽人くんにつられて笑う。
「夢じゃないよ」
今度は私から陽人くんの唇に触れる。そんな触れ合うだけのキスを何度も何度も繰り返す。なんだかとっても新鮮な気分。
「冬子さん、オレ、我慢できなくなっちゃいますよ?」
最後に唇を離したあと、私の目を真っ直ぐに見つめて陽人くんが言う。
「我慢しなくていいよ…」
なんだかずるい表現だなぁ、と言ってから思う。陽人くんの素直なところ見習わなきゃなぁなんて思っているうちにもう一度唇が重なる。でもさっきと違うのは重なるだけじゃなくて、舌が侵入してきたこと。器用に動く陽人くんの舌に驚きながらもその動きに身を委ねる。背中に回っていた腕が、胸の上に置かれて手のひらで優しく包まれ、撫でられる。キスの温度が上がっていく。服の上からなのになんでこんなに感じるんだろう。
…っていうか、このコ、上手い…
2年くらい彼女いないって言ってなかったっけ。あ、でも別にあれよね。彼女いないからってソウイウコトする相手がいないって訳じゃないもんね。でもなんかうん。嫉妬だ、コレは。器のちっちゃい女だな、私。しかも何受身になってんの?自分から手出したら物欲しそうに見えるから?でも欲しいんでしょ?陽人くんが。陽人くんの素直さ見習わなきゃって思ってるんでしょ?だったら。しゃんとしなさいよ。思ってるだけじゃなくてちゃんと言葉にしなさいよ。
「陽人くん…キス上手すぎ」
息継ぎのために唇が離れたとき、思い切って言葉にしてみる。
「え?…そんなことないですよ。オレ、夢中で…」
顔が真っ赤になる陽人くん。やっぱり可愛い。
「我慢できないのは私のほうだよ」
陽人くんのTシャツに手をかける。
「脱がしてもいい?」
「も、もちろんです。オレも…冬子さんの裸がみたい…」
「うん。じゃぁ…せめてカーテン締めよっか?」