昔のオトコ-10
ぱくりと割れたジッパーの部分を拡げ、下着の中から桃色の肉竿を取り出す。
すでにかなり熱を帯びて腫れ上がっているその先端部分には、キラキラと光る粘液がねっとりと染み出していた。
「……祐希のナカに入れるように、もう少し育ててよ……」
「……えっ……」
意味がわからずポカンと開いた唇を、指でいやらしくなぞられる。
「……ココで……」
意味がわかった途端、恥ずかしさで顔が赤らんだ。
オーラルセックスは付き合っていた頃にもしていたけれど、これだけ何年も間が開くと羞恥心が先に立つ。
「いいだろ……?」
そう言いながら私の肩をつかんで無理矢理ひざまづかせる一輝。
気持ちの中ではまだ受け入れていないのに、私は条件反射のように唇を開き、一輝の先端に向かって舌を伸ばしていた。
「……ああ……祐希……その顔エロいよ……たまんない……」
一輝が腰をつき出して私の舌に熱い肉棒を擦り付けようとした時―――突然大きなノックの音がした。
………いけない!
体勢をたて直す暇もなく勢いよくドアが開いて、廊下の方からエプロンを着けた若い男が顔を出した。
慌ててその場にうずくまり顔を伏せたが、。心臓が割れそうなくらいドキドキしていた。
―――だ……誰?見たことのない顔……。
社内の人間じゃ……ない?
しゃがんだ体勢のままぐるぐる考える。
「――あ、あの……テラシマです」
少しこもったような聞きなれない低い声がぼそぼそと名乗ると同時に、肉を焼いたような匂いがふわっと漂ってきた。
そうか―――「テラシマ」って……。
美味しそうな匂いのおかげで、ようやくその名前があの弁当屋と結びついた。
いつもの店主とは違う顔だったけど……新しいアルバイトか何かなのだろうか。
「ああ……もう来たの?」
一輝は落ち着いた様子で素早くファスナーを上げると、ドアのところまで弁当を受け取りに出ていった。
「野暮な弁当屋だな……取り込み中だって察しろよ」
そう言う割りに一輝の声はさほど怒っているふうではなく、むしろこの展開を楽しんでいるような口ぶりだ。
「あ?ああ……そうっすね……スミマセン……」
形式的に謝る弁当屋のお兄ちゃんの声も、心なしかニヤついているように聞こえる。
「えーと、じゃあ……日替り二つで800円になります」
小銭のやりとりをする音が微かに聞こえて、弁当屋は出ていった。
「……ゴメン……驚いたね……」
一輝がクスクス笑いながら弁当の袋を下げて戻ってくる。
「わ……笑い事じゃないわよ。出前頼んでたんなら、来るのわかってたってことでしょう?」
真っ赤な顔で立ち上がる私をなだめるように、一輝がお弁当の袋を差し出す。
「まあまあ、そう怒るなって。祐希のぶんも頼んどいてやったからさ」
「そんなもの………」
ふわんと鼻先で立ち上る美味しそうな匂いが、午後から働き詰めだったお腹にストレートに響く。
こ……これは……生姜焼き……かな?
性欲はあっという間に食欲へとすりかわり、妖しいムードはすっかり吹き飛んでしまっていた。
「……もう……ホントに帰ります!お弁当はこの前のぶんとチャラってことで!」
私はまだホカホカと温かいお弁当をひっつかむと、バタバタとデスクを片付けた。
一輝は自分のデスクに座って頬杖をつきながら、楽しそうにニヤニヤ笑っている。
「弁当、一緒に食おう。―――俺は祐希と食いたい」
いつかと同じように一輝が誘う。
その言葉に何も気のきいた言葉を返せないまま、私は逃げるようにオフィスを飛び出していた。
END