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スプーン・ポジション
【女性向け 官能小説】

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隣のオンナ-1



「ちょー店長っ!俺今すんげぇの見ちゃったんスけど!」


出前から戻るなり、俺はたった今見たばかりの光景を報告しようと、ガードレールに腰掛けて煙草をふかしている寺島のところへ小走りに駆け寄った。


「――おっせぇよ木村ぁ!出前3件回んのにテメーどんだけかかってんだよ」


寺島は俺の言葉を完全無視して、不機嫌そうに腕時計を睨み付ける。


「――え?俺、そんなかかってました?」


ジーパンの尻ポケットからひしゃげたマールボロを取り出して寺島の横に腰掛けると、中身を抜く前にパッと箱を取り上げられた。


「バーロー!40分だよ40分!5歳のガキでももう少し早ぇっての!」



「……いやぁ……5歳に出前は無理っしょ……」


ついぼそっと突っ込んだ俺をギョロッと睨み付けるドングリ眼(まなこ)は、怖いというより愛嬌がある。



「―――なんだ?テメーこの野郎。生意気な口きいてんじゃねーぞコラァ。なんなら今すぐクビにしてやっからなぁ」


口調では凄んでいるけれど、本気でそう思っているというより、半分以上は演出というか、おそらく初めて出来た部下らしき存在――つまり俺――に、そういう自分を誇示したいだけなのだ。


若い頃はそれなりにやんちゃだったのだろうが―――この男が実は顔に似合わず、情にあつく涙もろいということは、採用の面接の時によくわかっている。


「今回だけは大目にみてやっけど……もっぺんやったら承知しねぇからな!……ったく……」


寺島はぶつくさ言いながら短くなった煙草をヘビ柄の携帯灰皿の中でもみけすと、マールボロの箱を俺のエプロンのポケットに突っ込んで立ち上がった。


「いやぁ……マジですっげぇんだけどなぁ……。ありゃセクハラかな?……まぁ、女も半分はまんざらでもなさそうだったけど……」


「あン?―――何ィ?セクハラ?」


「セクハラ」という言葉にオスのセンサーが反応したらしく、寺島がハタと足を止めてこちらを振り返る。


そうこなくっちゃ。
俺はこの話がしたくてしかたがないのだ。


「お前―――何か見たのか?」


「―――ええ、まぁ」


ここはあえて思わせぶりのニヤニヤ笑い。


「――どこの会社だよ」


「向かいのT産業っス」


「ははあ。T産業か………あそこは一見華やかに見えっけど人間関係ドロドロしてっからなぁ」


何か思い当たる節があるのか、寺島は妙に納得したように頷いている。


「――何か、知ってるんすか?」


「いや、そういう訳でもねーけど……昼休みのOLの会話聞いてりゃだいたいどんな雰囲気の会社かわかるよ。前から思ってたけど、あそこは結構えげつないぜ?」


「へぇー」


俺は出前のある夜しかバイトに来ていないからよくわからないが、確かに昼休みというのは職場の愚痴や悪口が一番噴出しやすいものなのかもしれない。







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