序章-19
「マジかよ……」
「待って下さい……誰か居ます……巨大な蜘蛛に乗った男」
ピートはもっと良く見ようと身を乗り出す。
黒と黄色の縞模様の蜘蛛は家の大きさをゆうに越えていた。
その背中に乗った男の髪は長く紫色で、色白の肌は生きているのか疑わしいぐらい……それに、恐ろしい程冷たい光を放つ金色の目……。
「待て!金色の目だと?!」
「はい、ああ、アース殿の左目とおんなじ感じですね」
雰囲気は正反対ですが、と伝えるピートの頭上でアースとキャラは視線を交わす。
「魔獣……だな」
「他には?」
「えっと……他に人型は居ないですね……」
ピートが視線を走らせ再び紫の男に戻した時、ガッチリと目が合った。
「!!気づかれた!?」
男はニィッと口角を上げて笑うと、右手を挙げる。
すると、蜘蛛の体からブワッと何かが吹き出してこっちに向かって来る。
「攻撃来ます!!」
「系統は!?」
「け、系統?!わかりませんよそんなのっ!!見た感じ平べったい蜘蛛の糸です!距離1.5キロ!!」
舌打ちしたアースはとりあえず物理攻撃用の結界を準備した。
「アビィ!180度転回!!城に戻るぞ!!キャラ、ピート構えろっ!!」
アビィが方向転換した時、アースの目にも攻撃が見えた。
白く平べったい物体は見るからに硬そうだ。
「結!!」
体を後ろ向きに変えたアースは両手を前に突き出して呪文を唱える。
見えない壁と相手の攻撃が激突する。
ドガッ ビシッ
「……ぐぅっ……」
思った以上の衝撃にアースの体がぐらつき、アビィがバランスを崩した。
「わわわわわ」
振り落とされそうになったピートはキャラを支えてアビィにしがみつく。
連続で繰り出される攻撃を防ぐのが困難だと判断したアースは、自分で飛ぶ事にして風を操りアビィから降りた。
「アース!?」
驚いたキャラが顔だけ振り向いた。
「アビィ!行け!!」
一瞬躊躇したアビィだったが、振り切るように前を向く。
「アビィ!ダメ!アース!」
体を乗り出してきたキャラを、ピートが慌てて止めた。