序章-12
「ダンスは苦手、という事は他のものは得意ですの?」
「そうですねぇ……騎士団なので武術類は出来ますし、魔導師でもあるので知識もそれなりに……」
「そういう事ではなくて……」
イズミはアースに体を押し付けて、胸の谷間を強調した。
「ああ、そっちですか……」
どうやら誘っているらしい……しかし、相手はお姫様。
下手に手を出しても、無下に断ってもいちゃもんをつけられそうだ。
さて、どうやって穏便にこの場をきりぬけようか……アースは胸の谷間を見ながら頭を巡らせた。
ラインハルトと1曲踊り終えたキャラは椅子に座って休憩。
視線は広間でサイラ国のイズミ姫と踊るアースを追っていた。
(ふーん……イズミ姫はアース狙いか……物好き……)
いくらゼビアのナンバー2とはいえ、かなり際どい中途半端な地位に普通の姫が目をつけるはずがない。
どうやら見た目が気に入ったようだ。
まあ、一番の物好きは自分か……とキャラは苦笑する。
「キアルリア姫、お飲み物はいかがですか?」
そこへ明るい口調でグラスを持った男が話しかけてきた。
「ありがとうございます、デレク王子」
南の大陸、カイザス国の第3王子、デレクシス、通称デレク。
明るい茶色に所々赤いメッシュが入った髪、水色の目……一言で言って『軽薄』それが、この王子の印象だ。
が、この軽薄王子は何故だかキャラの事がお気に入りらしく、何度断ってもまとわりついてくる。
キャラの方が少し年下という事もあって話易いのだろうが……迷惑だ。
「アース殿が気になりますか?」
キャラの視線の先を確認したデレクシスは、グラスをキャラに渡して聞いた。
キャラはグラスを受け取って答える。
「アース導師はゼビアに留学していた時お世話になったので……」
グラスを傾け、中身を飲もうとしたキャラはぴたりと動きを止めた。
「……デレク王子……」
「やっぱりバレましたか?さすがキアルリア姫」
飲み物にはなにやら薬が入れられている。
いくらなんでも悪戯が過ぎる、とキャラの目がスゥっと細められた。
「それそれ!その目がゾクゾクするんだよねぇ♪」
悶えるデレクシスに呆れたキャラは、グラスを突っ返してテラスに移動する。
「あっ、待って下さいよぉ」
デレクシスは慌ててキャラを追いかけた。
テラスからは庭が一望できて、ゼビアの騎士団やらその他の国の護衛達が腕比べをしている。
「あ〜!キャ……キアルリア姫〜一緒にやらない〜?」
テラスに姿を見せたキャラに気づいたエンが手を振って誘った。