Valentine Day –side:lee--3
「な、なに?」
顔を上げると、アークが至って真面目な顔で話す。
「だから、『キライ』ってのは嘘だよ。普段、食べてる」
「? 見たことない」
「一人の時にな。ここはタバコ吸えねぇだろ? 禁煙してから、暇があると甘いの食うんだよ」
あ、れ…? そう言えば、タバコ吸ってるトコ見てないや……あっちの国じゃしょっちゅう吸ってたのに。
「だから、ほら、出せよ」
説明が終わると、アークは手をヒラヒラさせて催促してくる。
……何でそんなエラソーなんだよ……。
でも、ちゃんと無駄にならないって解ったのは嬉しい。大人しく鞄の中から水色の箱を取り出して、差し出された手に乗せた。
「ありがとな」
「っっ」
優しく笑って言われるとこっちが恥ずかしくなった。そんな大したものじゃないし、初めて作ったからカタチとか歪だし。
「トリュフか」
箱の中から一つ取り出すと、アークは迷わずそれを口に放り込んだ。
「美味いよ」
う。
笑ってそんなこと言われて、顔が一気に熱くなった。
普段褒めたりしないのに、こんな時だけそんなこと言うのって凄く反則じゃないかっ? こっちが慣れないんだからなっ
「…………ガキ」
「なっ」
何だっ いきなりっ
「だと思ってたけど……それなりに成長してンだな」
「?」
成長って?
立ち上がったアークは箱をポケットに直した。
「わっ」
腕を引っ張られて立ち上がると、ぎゅうっとアークの腕の中に閉じ込められた。
あー…温かい、な…。
リアナの時とは違う温かさだ。緊張するけど、何か安心する。それをもっと感じたくてグリグリとアークの胸に額を擦り付けた。
「リー」
暫くそうやってると、ポンポンと背中を撫でられて顔を上げた。そしたら、茶色い髪が顔に触れて…。
「な、ななななっ!?」
有り得ないっ! 頬っぺたに当たったぞ!
「やっぱガキ」
アークは意地悪く笑って、腕をほどいた。しかも、悪態付きでっ
お陰で一気に空気が変わった。
「バカアーク!」
結局、いつもと変わらないやり取りになった。
何だ、コレ。……良いけどさ。気を張らなくていいから。
「ほら、帰るぞ。送ってやるから」
ふと見上げると、空の色が紺色に変わり始めてる。
アークの差し出してくれた手に自分の手を重ねて、ゆっくりと歩き出した。
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わたしがまだ子供だから、合わせてくれてるんだろうな……なんて、半歩前を歩くアークの顔を見ながら思ってしまった。
―――いつか、隣に立てるかなぁ……?