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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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お嬢と爽やかと冷静男-11

「ちょ、幸一郎さん!?」
「いいからさっさと言え。先延ばしを繰り返しても無意味だ」
 遠矢はさらに文句を言おうとしたが、それが言葉になるよりも先に爽やかが割って入った。
「……話? 何ですか桜子さん」
「え? あ、えっと」
 遠矢がうらめしそうに横目でにらんできたが気にしない。一歩下がって成り行きを傍観することにした。
「どうかしたんですか?」
「……あの、ですね」
「はい」
 言え、言ってしまえ。そして早く部室に行かせてくれ!
「あなたの気持ちは、よく分かりました」
「……!」
 わずかに気色ばむ爽やかだが、一応それなりの分別はあるのか沈黙して次の言葉を待つ。
「ですけど、あの……、はっきり言って」
 ここまで来てまだ悩むのか、一瞬だけ口ごもった。だけどすぐに持ち直し、
「――貴方には路傍の石ほども興味がないのですが」
「なっ――!?」
 おお、容赦なしのド真ん中直球。いい度胸だ。
 勢いづいた遠矢は止まらない。
「それに、毎日のように後を付け回されて、迷惑なんですっ」
「ななっ!?」
 まあ、下手したら警察沙汰だしな。
「あの、ですから、……ごめんなさい、もう二度とわたくしに関わらないでくださいっ!」
「――――っ!」
 はっきりと言い切り、深く頭を下げた。
 しかし、けしかけておいて何だが、もっと他に言い方があったのではないか。あまりに直截な言い方に、少し爽やかの反応が気になった。逆ギレなど起こしていなければいいが。常識が通用しないやつだけに、どんな行動に出るか分からない。
 そんな心配が的中したのか、しばし放心したように動かなかった爽やかだが、やがてうつむき、肩を小刻みに震わせ始めた。
「……な、な――な」
「あ、あの?」
 言葉にならない言葉のリピート。何かヤバい雰囲気だ。
 何があってもいいようにと警戒する僕と遠矢の目の前で、爽やかは突然大げさに身を反らせた。
 怯えるように一歩後ずさった遠矢と身構える僕には目もくれずに、爽やかは両手を広げ、

「――なんて素晴らしい発言、凛々しい姿勢なんだ! 心のおもむくままに、恐れなく自分の言の葉を紡ぐ姿! それは揺るぎない強さ! ぼくは感動が止まりませんよ!」

『………………はぁ?』
 遠矢と見事にハモってしまった。
「流石は桜子さん、やはりこのぼくの心を奪うほどのひとだ! そこらの凡百とは格が違いますね」
「……」
 一気に脱力した。あばたも笑くぼと言うが、ここまで盲目になれるのは称賛ものである。
「……よかったな、ベタ褒めじゃないか」
「す、少しもよくありませんよっ」
 いやいや、実に腹が立つ幕引きだ。巫山戯るな。
「しかし、今のぼくではまだまだ桜子さんの理想とは釣り合わないようですね。本当に残念です。――ですが、いつか、いつか桜子さんに振り向いてもらえるまで、ぼくはあきらめませんよ! その冷静な横顔、いつか振り向かせます! では、アデュー!」
 いつかどこかで聞いたような阿呆な捨て台詞を残して、最後まで爽やかに笑いながら去っていった。
 ……似ている、つばさに告白しようとしたどこぞの馬鹿に。
 なぜに、なぜに僕の周りには電波部長や猛進告白男に自己中お嬢とか爽やかストーカー、おまけにミーハー新聞部員などが集まるのだろうか。
「……はあ、本当に人騒がせでしたね」
 お前が言うか。
「とにかく、ひとまず解決だな。……行くか」
 欠伸を噛み殺しながら、今度こそ部室に向かって歩きだす。そして遅れてついてくる足音ひとり分。
「あ、待ってくださいよ。ひとを無視するその態度はどうかと思いますっ」
「五月蝿い。……ところであいつと話すの嫌そうだったな」
「はい。恥ずかしながらわたくし、あまりまともに男の方とお話したことがなくて」
「……つまり僕とは話せるのは、まともな男じゃないからと、暗にそう言いたいわけか?」
 腹立ちまぎれに、たっぷりの皮肉をこめて言ってやった。
 でも、なぜだか、返事は来なかった。
 不審に思ったが、どうせうまいからかいの言葉が見つからないといった程度の理由だろう。
 だけど、
「いえ、違います」
「は?」
「……違いますよ。幸一郎さんは特別なんです」


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