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トシシタノオトコノコ
【OL/お姉さん 官能小説】

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about me : キサラギフユコ-4

最寄り駅に着いても、元夫が残してくれたあの家にまっすぐ帰る気にはなれなかった。かといって哲さんや友人に連絡する気にもなれない。ストレスが溜まると一人カラオケに行けるほど、お一人様にも慣れたけれど、流石に喪服で一人居酒屋に入るのもためらわれる。ため息ばかりつきながら、なんとか重い足を引きずるように自宅へ向かう。普段10分とかからない道を3倍近くかけて、疲れきった身体が座り込みそうになってしまったとき、いつものコンビニの灯りが見えた。灯りに吸い寄せられるように店内に入る。

「いらっしゃいませ」

元気のいいあのお兄ちゃん店員さんの声だ。姿は見えないけれどなんとなくホッとしたらうっかり止まったはずの涙がこぼれそうになって慌てる。離婚が成立してからは涙が出そうな状況でもこらえる術を身につけてきたはずなのに、どうやら今回の一件で私の涙腺はボロボロになってしまったらしい。少し静かに深呼吸。普段滅多に持たないカゴを持ち、いつもなら1本しか買わないビールの6本パックをカゴに入れる。ついでに元夫が好きだったおつまみも入れた。今日くらい弔ってやろう。幸い今日は金曜日だ。多少の二日酔いも怖くない。

レジへ向かうと、お兄ちゃん店員さんが走ってやってくる。私の姿を見てギョっとしたような顔をする。いつも買う煙草といつもは買わない元夫がよく吸っていた煙草をお願いしてお会計をする。その間、彼はずっと心配そうな顔をしていた。いつも元気なありがとうございますの挨拶も心無しかトーンダウンさせてくれた。

「ありがとう」

いつも通りそう告げて店を出て歩き出すと、後ろから

「すみませんっ」

と声をかけられ、驚いて振り向くとお兄ちゃん店員さんが立っていた。すっと彼が差し出してくれたのはチェックのタオルハンカチ。

「あ、あのっ。コレ使ってください」

「え?あ、ありがとう…」

泣いていたのバレてしまったんだろうか?

「あのっ、余計なことかもしれないんですけど…元気出してくださいっ、ってなんかおかしいですよね、ほんとすみませんっ」

そう言って頭を下げる。一生懸命私を励まそうとしてくれてる気持ちが伝わってきて、なんとか私は微笑むことができた。

「ありがとう。遠慮なくお借りします」

差し出してくれたタオルハンカチを受け取ると、

「ありがとうございます、お気をつけて」

と深々と頭を下げてこちらを振り返りつつお店へ戻っていった。その姿がこれまた微笑ましくて家までの足取りが少し軽くなった。

*****************

「で、そのタオルは返したの?」

なぜか哲さんはその男の子に興味津々だ。さっきまで抱き合っていた女が別の男の話をするのはイヤじゃないのだろうか?セックスフレンドだから?文字通り私たちは身体の関係もある友達、だ。私が女性であることを忘れないでいさせてくれる男。女を磨くことをちょっとでもサボれば容赦ないダメ出しをしてくる男。

「うん。洗って、一応お礼に小さなお菓子と一緒に」

「ふーん、それなのにそのあと進展ないんだ」

「ないでしょ?フツー」

「進展させて食っちゃえばよかったのに。いーじゃん、年下の男の子をイチから自分好みのセックス教え込んでいけば」

そう言ってバスタオルの上から私の胸を揉む。

「若い男の子なら回復力あるしな、腰の動きだってキレがあるだろうし何度でもイカせてくれるぞ?」

「はいはい」

「でもさ、もし上手く行った時はちゃんと報告しろよ?その時はフユから卒業してやる」

そう言ってオデコにキスをする。終了の合図だ。グショグショになってしまった下半身を洗い流すべく、バスルームへ向かう。

頭から熱いシャワーを浴びていると元夫からの手紙の一文がふと脳裏に浮かぶ。

「冬子と結婚できてとても幸せだった。それなのに深く傷つけてしまったこと、悔やんでも悔やみきれない。傷つけたオレが言うべきことじゃないかもしれないけれど、冬子には幸せになって欲しい。」

…幸せ、ねぇ。

私の幸せってなんだろう。誰かと恋に落ちてまた結婚すること?でもまた裏切られるかも、と怯えて暮らすのは幸せ?やっぱり一人でこのまま生きていくほうが幸せ?

「フユ?」

バスルームの外から哲さんの声がして慌てて身体を洗って外に出る。卒業、ねぇ。まぁどちらかに特定の相手ができれば終わる関係なのだから仕方ない。でも当分出会いなんてないし、哲さんに特定の相手ができるほうが早いんじゃないだろうか。哲さんがシャワーを浴びている間に帰り支度を整える。携帯を確認すると平田から合コンが不発だったと相変わらずの報告メールが入っていて苦笑する。

「なに携帯みてニヤケてんの?男?」

あぁ、この人は本当にもう。

「哲さんはそんなに早く私から卒業したいんですか?」

「さぁ、それはどうかな?」

そう意地悪に笑う哲さんが嫌いじゃない。

「でもさ、オレもフユには幸せになって欲しいって思ってるよ。まぁ焦ってクズを掴む必要はないだろうけどさ。フユの周りにはフユのこと想ってるヤツ沢山いると思うよ。フユが気づいていないだけでさ」

そんな話をしながらいつも別れる駅の改札に辿り着いて、お互いに手を振って別れる。私を想ってくれる人ねぇ。そんな奇特な人、本当にいるんだろうか。最寄駅から自宅まで歩いている間、哲さんとの会話を反芻させる。見えてきたいつものコンビニの灯り。あのお兄ちゃんの癒しの笑顔に今夜も会えるだろうか。あのいらっしゃいませが聞きたくて、私は今日もあの店のドアを開ける…


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