日常と冷静男と奇妙な仲間-1
ケース0/『僕』
授業中。
正確には本日最後の授業中。ある者はいそがしそうに黒板の文字を書き写し、またある者は机に突っ伏して夢の中へと逃避行。
そして僕は。
……退屈だ。
退屈だからいろいろなことを取り留めもなく考える。どうでもいいようなことばかりだけれど。
例えば、今受けている授業の内容とか。黒板を見るけど、いつものごとく理解できなくて五秒でやめる。
次にふと窓の方に目をやると、空には一面に灰色の雲が広がっていて、それを背景にしたガラスに自分の顔が映っていた。無愛想だと指摘されることが増えた顔が。
……女顔だと言われる機会も増えたということは目を伏せて。
つばさは愛想を良くすることぐらい簡単だと言っていた。使わないでいると顔の筋肉が固まるとも。
んな馬鹿な。
……。
おもむろに右頬をつまんで軽く引っ張ってみた。
くいっ。
窓に映っている、頬が引っ張られている自分の顔を見て、我ながらけっこう間抜け面だなと思う。
……馬鹿みたいだからすぐやめた。
そんなこんなで時間を潰しているうちにチャイムが鳴って授業は終了、教科書はすべて机の中へ。そしてすぐさま鞄をつかんで目指すは廊下。
ここまでで僕に話し掛けてくるやつなんて誰もいない。いつも通りの展開だ。理由は簡単、このクラスに友達と呼べるような人種はいないからだ。
そんなの馴れているけれど。
そして、いつも通りの放課後になったからには、これからの行き先もいつも通り。
いつも騒がしいけれど、別にそう嫌いでもない場所へ。
さて、文学部へ行こう。
ケース1/五十嵐
今日はつばさが風邪で休みのため、ひとりで部室へ向かっていると、途中で文学部の先輩である五十嵐に遭遇した。
「よぉ、栗花落(つゆき)」
五十嵐は僕を見つけると片手を軽く上げ、笑顔であいさつ。
短く刈り込んだ黒髪にがっしりした身体。それでも威圧感を感じないのは、いつも人当たりのよさそうな柔和な表情を浮かべているからだろう。
さらに常識もあるため、頭の構造を疑いたくなる奇抜なメンバーが集まっている文学部の中では、付き合いやすい人物だ。
「どうも」
「ん、ひとりか。大宅はどうした?」
「風邪で休みです」
「なるほど」
これだけで納得してくれるのも、どこぞの馬鹿女子ふたりとは違うところだ。あいつらなら確実にこれだけでは止まらず、妄想や電波のまま意味不明なことをほざいていただろう。
「それにしても、大宅がいなくてもちゃんと出るんだな、部活」
「意外ですか」
「んー、まあぶっちゃけるとな。でも、なんだ、いいことだとは思うぞ?」
そういって笑う顔にも嫌味はない。
「……帰るにしても顔ぐらい出さないと、うるさいですから」
「ははは、仲いいな、おい。うん、良きかな良きかな」
「……本当にそう見えるんですか」
僕がそう言うと、なぜそんなことを聞くんだといった感じの表情を浮かべ、
「あいつら部活中いつも楽しそうだぞ。もちろん栗花落もな」
「……」
確かにやつらは無駄に楽しそうだ。やつらは。だけど、僕まで楽しそうに見えるとしたら、それは脳か視覚の異状だ。
「毎日が両手に花じゃねーか。うらやましいねぇ。くくくっ」
「……」
笑いながら豪快に背中を叩いてくる。かなり痛い。
まともな人間に近いことは近いが、何だかんだ言って、結局はこいつも文学部的思考の持ち主だと思い知らされた。
……僕の安息の地はいずこに?