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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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部活と冷静男と逃亡男-21

「……何を驚いてるんだ?」
「あ、うん、いや、何でもないよ」
 とてもではないが、逃げる算段をしてましたなどとは口が裂けても言えない。
「……まあいい。春は変なのが増える季節だしな」
「幸一郎さん、直截にに言いすぎですよ。もっと暗に示した言い方でないと。まだ付き合いの浅い方なんですから、引かれたら後々面倒ですよ」
「……別にどうでもいいだろ。こんなやつらと長い付き合いになるわけじゃないし」
「ダメですよ。いくら人としてどうでもいいような方々でも、悪い噂を流されたら困るじゃないですか。ここは形だけでも友好的に行きましょう」
「こいつらと友好的、か。相手を選ぶ権利ぐらい欲しいよ、まったく」
「仕方ないじゃないですか。社会に出たらどんな相手だろうと演技しなければいけない場合もあるんですから。今はその練習と割り切りましょう?」
 本人達が聞いているのに、まったく気にした様子もなく普通に話し続ける二人。
「あのー……」
「ん、何だよ」
「僕たち、ずっと待ってたんだけど、何の用なのかな?」
「ああ、忘れるところだった」
「……」
「少しばかり勘違いしてそうだから言わせてもらうが、さっきお前らが見たのは事故だ。わざとじゃない」
「……嘘くさ」
「嘘じゃない」
 睨まれ上に語気を強めて言われ、気押されながら答える。
「わ、分かったよ。それで?」
「それだけだ」
 拓巳は、我が耳を疑った。
「それだけのために待たせたのっ?」
「ああ。お前らに勘違いさせたまま帰して、変な噂を立てられたら迷惑だからな」
「……」
「分かったならもう帰ってもいいぞ。つーか邪魔だ。帰れ」
 もはや拓巳たちには興味など無さそうにあっさりと言われ、拓巳は愕然とした。
「な、何なのさ! いくらなんでもそれは横暴だよ!」
「ああ、はいはい。悪かったな」
「なっ――!」
 相手にするのも片手間といった態度に、さすがに限界だった。
「このっ、最低! 自己中!」
「た、拓巳くん! 言い過ぎだよっ」
「……」
「いいんだよ、こんなやつ! 自業自得じゃん!」
 怒りで冷静さを欠いた拓巳には、栗花落の肩がピクッと反応したのにも気付かず、さらにまくしたてる。
「僕の貴重な時間を返せ! 痴漢! 性犯罪者ー!」
「……っ」
「こうなったらある事無い事噂してやる! 一年の栗花落は女子を襲ったけど返り討ちにあったって! 特に女子には念入りに話してやるっ!」
「……お前」
 栗花落がゆっくりと振り向く。そのときになって、拓巳はようやく異変に気付いた。
「……そんなに死にたいなら選択肢は三つだな。――A・素直に僕に殺される。B・今からあの世に強制輸送。C・地獄に落とされ泣きを見る。さあ、好きなのを選べよ」
 拓巳は息を呑む。かなり本気っぽい。あれは殺ると言ったら確実に実行する目だ。
「じ、じゃあ――Dのどれも嫌だよバカ野郎で」
「……そうか」
 くっくっと喉を鳴らし、見るものの背筋を凍らせるような凄惨で冷たく濁った笑みを浮かべ、
「――全部まとめて希望な」
「うわっ……!」
 目の前の生き物は夜叉か般若か。
 ドス黒い明確な殺意のオーラを振りまく栗花落に、生物としての本能が警鐘を最大限に鳴らしている。
「い、いいの? 後で噂しちゃうよ? 広めちゃうよ? ――擦り足でジリジリと間合い計らないでよ! 恐いから!」
「……その前に仕留めてみせるっ!」
「あー、そこの御方。死にたくないなら本気で逃げたほうがいいと思いますよ? ここまで壊れた幸一郎さんはなかなか止められませんから」
 こんな状況に似付かわしくない朗らかな笑みを浮かべるその女子の言葉に、拓巳は戦慄した。
 リアルに生命の危機を感じた拓巳は、
「っ、うっ、うわああぁぁあ!」
「……逃がさん!」
 背を向けて全力で走り始める。そして、すかさずそれを追い掛ける栗花落。
「お二人とも、頑張ってくださいねー」
「た、拓巳くん!」
「大丈夫ですよ。男の人には拳をぶつけ合って生まれる友情もありますから」
「で、でも……」
「心配しなくとも、疲れたらそのうち戻ってきますよ。だから待っていましょう?」
「……はい」

 響く悲鳴に、追う怒声。
 生死を賭けた鬼ごっこで、新たな友情が生まれたかどうかは、それぞれお互いだけが知るのみ。
 放課後の校舎で、追う者と追われる者は、ただ死力を尽くしてひたすらに走り続けていた。


 (了)


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