「超合体浪速ロボ・ツウテンカイザーV〜新世界征服ロボの挑戦〜」-2
「ま、まさかこいつは世界征服ロボ・コアラドラゴン…」
「博士、このロボットを御存知なんですか?」
振り返る王鷹だが、十文字博士はメインモニターを注視したままで、額には脂汗がにじみ出ている。
「お父ちゃん、コアラって何やのん?」
パイロットスーツに身を包み、押っ取り刀で十文字ひよこが姿を現す。その後ろから、おずおずと顔を覗かせる恭子。
「むう、コアラではなくシャチが合体しているのか?しかし、この姿は余りにもコアラドラゴンに酷似している…」
「そやから、コアラって何やねんなっ!?」
次の瞬間、すぱーんと景気の良い音を立ててひよこのハリセンチョップが十文字博士の後頭部を強打した。
「こら、貧乳娘っ!!いきなり父親の頭をどつくってなぁ、どないな事やねんっ!?ごっつ、痛いやないかぁっ!!」
「貧乳言うなっ!人が訊いとんのに無視するさかいやっ!それにハリセンチョップが痛いやなんて、大阪人やめてまえっ!!」
「だあほっ!痛いのに大阪人もポーランド人もあるかいっ!大体お前は…」
例によって派手な親子喧嘩が始まろうかという寸前に、王鷹が鋭い語調で十文字博士を制した。
「博士、それでこのロボットは一体…」
言葉と共にひよこを睨み付ける王鷹。ひよこは大阪人とポーランド人、どない関係があるねんとぶつぶつ言っているが、王鷹はそれにかまわず、十文字博士に話の続きを促した。
「あ、ああ、そうやったな。今からもう五、六年前にもなるかな…。儂の助手にロボット工学の麒麟児と呼ばれる若き天才科学者がおったんや。まあ、乳はそれ程でもなかったけど、十五歳で博士号を取った超天才少女やった…」
「(ロボット工学と乳とどない関係があるねん…。註:ひよこ、心の声)」
「おほん、そやけど天才と何とかは紙一重、言うんかな、そいつは世界征服を企む悪の天才科学者やったんや。その頃、儂は密かに火星人襲来を予期して二体のロボットを造っていたんやけど、その内の一体は製造指揮を完全にその娘に任せていたんや。それがさっき言うてた世界征服ロボ・コアラドラゴンで、もう一体はツウテンカイザーの前身ツウテンAや。そして、その二体のロボットが完成した時点でその娘は本性を表したんや。その娘はコアラドラゴンを世界征服ロボと称し、ツウテンAに戦いを挑んできたんやけど、ツウテンAは何とかコアラドラゴンを退けてな、結局それっきり、その娘は研究所を飛び出してしまい、行方知れずに……」
十文字博士は経緯を語り終えると、恭子が気を利かして持ってきたお茶、“発明は根性やっ!!”と書かれた湯飲みに口をつけ、静かに喉を潤した。
「それで、この謎のロボットとそのコアラ何とかが関係あると…?」
お盆を手にした恭子が十文字博士に問い掛けると、十文字博士は何時になく神妙な面持ちで深く頷いた。
「そしたら、そのコアラがツウテンカイザーにリターンマッチを挑みに来たんやろっ?こんな所で落ち着いてお茶飲んでる場合と違うんちゃうのんっ??」
一人合点したひよこは司令室を飛び出そうとするが、その腕を王鷹が咄嗟に掴み、ひよこを引き戻した。
「相手が意趣返しを目的として戻ってきたかどうかなんて、まだ分からないじゃないか!軽率なことは慎め!まったく、お前って奴は何時だって後先考えずにほいほい飛び出しやがってっ!!」
王鷹の剣幕に首をすくめるひよこ。しかし、その顔には不承不承と言った様子がありありと現れている。
「まあ、王鷹君の言う通りね。相手は火星人じゃないんだし、まだ敵意があると決まったわけでもないし…。もしかすると火星人撃退の為に力を貸してくれるのかも…」
スチュワルダが王鷹に同調するが、その言葉を聞いてひよこが怒声を上げる。
「世界征服ロボなんちゅう物騒なもんを造ったイカれた科学者が、どう考えたら平和目的に力を貸すいう発想になるねんなっ!?」
そこへ、ひよこをなだめようと恭子がおずおずと口を挟む。
「あ、でもでも、ほら、人間どういう心境の変化があるか分かんないし、もしかしたらこの数年で改心したとか。最初から悪人と決めつけてかかるのもどうかな?」
柔らかな頬を膨らませ、眉根を寄せるひよこ。そこへ、イカれた科学者十文字雷蔵が珍しく娘の援護に回った。
「いや、ユーナ・オストアンデルはそんな可愛らしい玉やない…。あいつは無口で偏屈、人を見下す事に快感を覚える異常性格科学者で、正義のロボットよりはアンチヒーローに傾倒する歪んだ価値観を持った変態悪ロボ博愛主義者なんや。それが改心するやなんて天地がひっくり返ったところでありえへん。大体ヒーローロボあってこそのライバルメカやないか。最終的には勝つのは正義のロボットなんや。それを、ライバルロボの方が格好良いなんて、そんな阿呆な事を言うロボオタ娘が…」