異界幻想ゼヴ・クルルファータ-5
「……悪い」
傷口は瞬時に塞がっていたから、代わりにその真紅を舐め取る。
血の味さえ、甘く感じられた。
舌で、口腔で。
甘露を味わい、飲み下す。
「ジュリアス……」
怯えの混じった声に、ジュリアスは苦笑した。
唇を噛み破られた上に血を飲まれては、普通の人間なら怯えるだろう。
「……足りねえんだよ」
華奢な体を、抱きすくめる。
「お前が全部晒してくれたら、満たされるのに」
狂暴な行為とは裏腹の優しい抱擁に、深花は混乱した。
全く、わけが分からない。
この男はいったい、自分に何を望んでいるのだろう。
だいたい、全部晒せとは何を晒して欲しいのだ。
裸はとっくに晒しているし、心は……心情を晒せば、ジュリアスの迷惑になるに決まっている。
ジュリアスとは志を同じくする仲間が一番いい距離感だと思うので、自分の恋心は厳重に秘めておかねばならない。
自分の部屋だってこうして晒しているし、あと晒していないものなど……そこまで考えて、深花ははたと気づく。
少し前、ジュリアスが興味を示していたではないか。
「……ねぇ」
深花は、ジュリアスの頬に手を添えた。
「もしかして……」
深刻そうな顔に、ジュリアスはぎくりとした。
まさかの告白タイム、な雰囲気である。
もしや深花も自分を憎からず思ってくれていたのかと、ジュリアスは期待を込めて彼女の顔を覗き込む。
「お尻でしてみたいの?」
あまりの結論に、ジュリアスは撃沈した。
「お前……」
気力の尽きた声を振り絞り、ジュリアスは問う。
「どうしてそうなる……?」
まさかの告白タイムはまさかの天然ボケによって掻き乱され、真剣だった自分がとんでもない道化になってしまった。
「え、だって……」
気力が尽きれば重い体で深花を押し潰さないようにしていた気遣いも萎えてしまい、ジュリアスは深花を下敷きにしてベッドに沈み込んだ。
「私が晒してないとこなんて、そこくらい……」
体に押し付けられた股間の中心がみるみるしおれていくのを感じ、深花は自分がとんでもなく無粋な事を言ったのだと気づく。
しかし、他に晒していい個所に心当たりはない。
「あれはお前にゃやらんって言ったろうが。聞いてなかったのか?」
「でも……」
「あーもういいもういい。十分分かった」
いずれ機会を持って、しっかり告白する事にしよう。
ジュリアスは、そう決心した。
この調子では、深花が自分を男として意識しているかどうかさえも非常に怪しい。
まずは自分が彼女に個人的関心を抱く一人の男なのだと、意識してもらう事から始めねばならないようだ。
「ちょ……いったい何が分かったのよ?」
「色々お前が鈍い事がだよ」
「え?」
「めったくそに鈍い。とんでもなく鈍い。どうしようもなく鈍い。鈍すぎて手に負えない。あー」
さんざん言い散らかされた揚げ句、急に納得した声を出されて深花はまた混乱した。
「お前、男と付き合った事がないんだもんな。そりゃ鈍いわ」
いい加減失礼な話に、深花は怒ろうと口を開いた。
そこに、ジュリアスの唇が落ちる。
「初心者相手に段階無視した俺が悪かった。ゆっくりステップ踏んでやるから、ちゃんと刻み込めよ?」
どこの乙女ゲームかと思うような台詞に、深花は真っ赤になった。