異界幻想ゼヴ・クルルファータ-44
「そのまま離れていってしまった女との思い出と決別するために呟いた言葉を、ばっちり聞かれちまったわけだ」
「そ、それじゃ……っ!」
額にキスされ、深花は飛び上がる。
「この五年、メナファとは全く音沙汰なしだ」
「け……決別の言葉が愛してるなんて……」
思えばあの頃、自覚はなかったがこの男の事を好きになり始めていたのだろう。
そうでなければあの時受けたショックを、今の今まで引きずるわけがない。
「で、弁解は終わったんだが……?」
その目を覗き込めば、そこに解答は浮かんでいた。
「色んなものは全部どこかにやって、純粋にお前の気持ちはどうなんだ?」
それでも思いを自分の口に乗せて、よりはっきりした形で示して欲しかった。
「……す……」
思いを口にしようとした深花は、うつむいて視線を逸らす。
その顎に手をかけて上向かせると、頬がみるみるうちに真っ赤になった。
この先、何があるかなんて分からない。
けれど今、思いを告げてくれたこの男が欲しい。
「……好き……」
ジュリアスは微笑んで、その唇を奪ったのだった。
後ろから足音がついて来ないので振り返ったティトーが見たものは、キスを交わす二人だった。
「……とうとう、選んじゃったのね」
フラウの呟きが聞こえ、ティトーは驚いた。
語調からして、さほどショックを受けている風ではない。
「気づいてたのか?」
「ずっと、ジュリアスしか見ていなかったもの。彼が深花に惹かれていくのもその逆も、あたしはずっと見てた。けどあたしは、とっくにフラれてるし……ね」
ティトーは、フラウの腰に手を回す。
「俺にしとけよ」
短く言うと、フラウはまじまじとティトーを見る。
そして、気づいた。
自分はずっと、ジュリアスを求めて彼に手を伸ばしていた。
けどそれは、反対側から自分を支えてくれる男がいたから続ける事ができたのだという事に。
「俺もお前の秘密を知ってる。むろんお前の体には何の偏見もない……どころかむしろ、一人と付き合えば二つが楽しめるくらいの勢いだからな。お得だと思わないか?」
火遊びばかりで本命を作らなかったのは、そういう理由があったのだ。
「……少し考えさせて。いきなりだから、びっくりしてついていけないわ」
ティトーは、くすりと笑う。
「あいつしか見てないお前を、五年待ったんだ。今更期間が伸びた所で、どうって事はないさ」