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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・クルルファータ-43

「さて、積もる話もあるでしょう」
 立ち上がりつつ、デュガリアは言う。
「僕が一足先に戻って帰還の報告を済ませますから、ごゆっくりどうぞ」
「あ……デュガリアさん」
 思わず呼び止めると、デュガリアは深花を見た。
「その……ありがとうございました」
 礼を言うと、彼は微笑んで一礼する。
「あなたとの約束が果たせて何よりです。では、失礼」
 デュガリアの姿が見えなくなってから、四人は立ち上がった。
 ティトーとフラウが歩き始めたのを見つめながら、深花は言う。
「終わったね」
 とても不可能に見えたフラウ救出を、成し遂げる事ができた。
 感慨深く呟く深花を、ジュリアスは背後から眺める。
 そして、決めた。
「……なあ」
 声をかけると、深花が振り返る。
「ん?」
「俺さ、親父と話し合おうと思う」
 絶縁を解除する気になったのかと思い、深花はまじまじとジュリアスを見る。
「で……その話し合いに、付いてきて欲しい。お前がいれば俺、キレずに親父と話せる気がするんだ」
「うん、いいよ」
 頷かれ、ジュリアスはほっとした表情になる。
「そ、そうか。付いて……」
 喋りながら微妙な表情になったジュリアスは、深花の頬に触れる。
「……もしかして、付いてくるだけだと思ってるな?」
「え……違うの?」
 婉曲すぎた事に気づき、ジュリアスは言葉を変える。
「違うに決まってらぁ……ストレートに言うぞ。一人の女として、お前が好きだ」
「へ!?」
 驚いて硬直する深花を、優しく抱き締める。
 返ってくるのは肯定か、驚愕か。
 少なくとも嫌われてはいないので、ジュリアスはそう踏んでいた。
 だから深花の目に篭められた感情を見た時、驚いた。
 怒り。
 そして、悲しみ。
「……どうして、そんな事を言うの」
 ジュリアスの服を掴んで、深花は言う。
「私以外の人が好きなくせに!その人の事は愛してるんでしょ!?」
「だ……!」
 誰だそんなデマを飛ばしてる奴はと怒鳴ろうとして、ジュリアスは気づいた。
 深花の前で名前を呼んだ女など、数えるほどしかいない。
 ましてや名前に愛してるなどと付け加えた女は、一人だけだ。
「おめえはよぉ……耳がいいな」
 ひとしきり笑ってから、ジュリアスは改めて深花を抱き締める。
「それについては、今から弁解する。聞く耳はあるな?」
「……聞こうじゃないの」
 涙目で、深花は呟く。
「いちおう聞いておくが、俺が愛してるって言った女の名前は?」
「……メナファって、聞こえた」
 やはりと思い、ジュリアスは舌で唇を湿す。
「そう、名前はメナファ。年はフラウと同じくらいだな」
 深花の髪にそっと頬を擦り寄せると、彼女はぴくりと震えた。
「俺とメナファは、お互いを好き合ってた……と思う。けど、互いに思いを告白できない理由があった」
 指先を頤から喉へと滑らせれば、その目の中の感情が揺れ動く。
「メナファは、娼婦だ」
 びく、と深花が震えた。
「俺達が出会ったのは五年前……俺が半年ばかり逗留した娼館の新造が、メナファだった」
 耳元に唇を寄せ、ジュリアスは続ける。
「学ぶべき事を学び終わって、娼館を出ていく日。別れの際に言ってやりたかった言葉。けど俺には娼婦を買い取るだけの甲斐性なんか当然ない」
 耳元で聞こえる声に深花が悶えるが、構わず続ける。


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