異界幻想ゼヴ・クルルファータ-42
「何と言う……」
ため息混じりの呟きを聞いて、ジュリアスが動き出す。
「あれが、バランフォルシュか……」
「凄い、以外の感情が湧かないな……」
フラウのついでにその腕へ抱かれたティトーは、改めてフラウを抱き直す。
「バランフォルシュ様が、ダェル・ナタルに降臨されるなんて……」
狼狽ととれるほど呆然としているウィンダリュードの言葉に、深花は彼女を見た。
ジュリアスと相通じる所がある気性の少女は、バランフォルシュがいた場所に視線を注いでいる。
「初めてお目にかかったんだけど……」
圧倒的な存在感やその立ち居振る舞い……彼女は人間よりずっと優れた生き物なのだと、深花は思った。
「やっぱり、泣いてらっしゃらない……」
どうしてもそこが引っ掛かり、深花は呟いた。
彼女が何を決意したのか、知る事はできるのだろうか。
二人との別れは、あっさりしたものだった。
リオ・ゼネルヴァに通じる穴が向こうから開いていく間に交わした短い会話が、その全てだ。
「お前達があそこに足を踏み入れ帰還した時、我々は敵同士に戻る」
ヴェルヒドの言葉に、ジュリアスが笑った。
「もちろんだ……生誕節が終わったら、だがな」
「だな」
剣と拳。
振るう物は違えど、どちらも一流の戦士だ。
付き合いは短いが通じるものがあった二人は、不敵に笑い合う。
「……覚悟しておけよ」
「そっちこそ」
深花はウィンダリュードの顔を、まじまじと見つめた。
ピンクの髪にピンクの瞳、ミルクに一滴だけ朱を落としたような色合いの肌。
幼さに隠れているが、かなりの美人だ。
「……あによ?」
不機嫌そうに、ウィンダリュードは問う。
「さようなら」
別れを告げると、彼女はそっぽを向いた。
「ようやく帰ってくれて、せいせいするわ」
しっしっと手を振って、わざと深花を邪険に扱う。
そうしないと自分がどうなるか、彼女自身がよく分からなかった。
「じゃあな」
開ききった穴に五人が飛び込んでいき、穴が閉じる。
「……貴重な経験、と呼んで差し支えないのかしらね」
誰にともなく呟いたウィンダリュードは、後ろに気配が生まれたのに気づいた。
「……なんだ、あんたなの役立たず」
いきなり罵られた事に、その人物はびくりと震える。
「あたしゃあんたに、ミルカを殺せと命令したはずなんだけど。どう見たってぴんしゃんしてるじゃない」
ウィンダリュードは無意識のうちに、自分の髪を撫でていた。
自分にとって不倶戴天の敵と思っていた女に梳かせてしまった、自分の髪を。
「……命令は、変わらないわ」
それを振り切り、ウィンダリュードは言う。
「ミルカを、殺しなさい」
位置が微妙にずれてしまったらしく、五人は基地の外に広がる草地に尻餅をついていた。
「帰って、きたのね……」
信じられないという面持ちで、フラウが呟く。
「助けなんて来ないと、思ってたのに……」
「寝言を言うな」
心外そうに、ジュリアスが言う。
「そうですよお」
笑いながら、深花が付け加える。
「二人とも、助けに行かせてもらえないなら神機ごとトンズラするって大佐を脅し付けたんですから」
「それをばらすなよ……」
苦笑しながら、ティトーは言った。