異界幻想ゼヴ・クルルファータ-34
着せられた下着のサイズが、測ったようにぴったりなのも不気味である。
「こちらへどうぞ」
メイドに連れられ、バスローブを羽織った二人は別室で化粧をしてドレスを身に着ける。
深花には襟ぐりが少し大きめに開いた純白のローブと、淡いモスグリーンのガウン。
ウィンダリュードにはパフスリーブがかわいらしい、深い青に染められたドレス。
着飾ってから婦人に案内され、二人は玄関ホールに舞い戻った。
そこには既に四人が待っていて、二人を見ると一様にほっとした表情を浮かべる。
全員丸腰だったが、ホールの隅に武器を預かった男が立っていた。
四人も入浴したらしく、全員がヒゲを当たってさっぱりした姿だ。
「おお、来たか。意外と早かったな」
ヴェルヒドの声に、深花はそちらを見る。
さすがに規格外の大男のサイズは用意できなかったのか多少つんつるてんだが、着飾ればなかなかのものだ。
「……お前、やっぱり化けるなぁ」
ジュリアスの声に、深花は視線を引き戻す。
シルクサテンのブラウスの上に重厚なジャケットを羽織り、膝までを覆うパンツとタイツという格好を、実に違和感なく着こなしている。
「まあ、普段化粧なんてしないしな」
似たような格好をしたティトーが、茶々を入れる。
「となると、素で愛らしいのですね」
軍服と似た衣装を纏ったデュガリアは、感心した風に呟く。
肉体鍛練のために地をはいずり水を渡り森に潜む生活をしていれば、顔に白粉をはたいたり体に香水を吹き付けたりするのは全くの無意味としか言いようがない。
化粧品の性能があちらより進歩していないのでフラウから一通りの手ほどきは受けているが、そういう事情があって深花は基本すっぴんだ。
非番で門前町まで出て行く時に、薄化粧とコロンを楽しむくらいである。
「……さて」
ごきりと首を鳴らして、ヴェルヒドは言った。
「振り回されるのにもそろそろ飽きてきた。いい加減、本題に入ってもらおうか」
度胸のない人間なら見ただけで震え上がり、ついでに小水まで漏らしてしまいそうな迫力に満ちたヴェルヒドの視線だ。
しかし、婦人はどこ吹く風と受け流す。
「我が君は、皆様とともに食事をしたいとの意向を持っております。間もなく順調が整いますので、もう少々お待ち下さい」
「食事?」
ジュリアスが、不審そうに呟いた。
「ずいぶんと、客に対するサービスのいいホストだな」
ティトーが皮肉ると、婦人は無言で頭を下げる。
「どうぞこちらへ」
何かの合図を受けたらしく、婦人が歩き出した。
六人は顔を見合わせ、婦人についていく。
暖かく明るい食堂の真ん中には二十人は座れる、純白のリネンが眩しいテーブルが鎮座していた。
向こう正面のホスト席へ座る男へ、全員が視線を注ぐ。
年は三十代後半といった辺りか。
道案内の男と共通するくだけた雰囲気を発散しているが、その目は周囲に油断なく配られていて隙がない。
「ご苦労だったな」
ボスが婦人をねぎらうと、彼女は一礼して食堂を出ていった。
出ていってからすぐ、深花とウィンダリュードに視線をやる。
「やはり女は着飾った方がいいな」
そうひとりごちると、ボスはテーブルの両脇に並ぶ椅子を示した。
「どうぞ掛けてくれたまえ。ささやかな午餐と一緒に、詰めたい話がある」