異界幻想ゼヴ・クルルファータ-23
「名前とか外見とか!直に見たあんた達二人ならどうにか識別できるでしょうけど、ぶっ飛んだ二人が誰なのかあたしらは知らないのよ!」
最もな話である。
深花は、二人のざっとした特徴を伝えた。
「ティトーにデュガリア、ね。ううん……」
ウィンダリュードは眉間に皺を寄せ、何かに集中し始めた。
やおら地面に手をつき、一声叫ぶ。
「……見つけた」
小さく鼻を鳴らしたウィンダリュードは立ち上がり、一方を指し示した。
「金髪のいけ好かない男。デュガリア、だっけ?」
「ふむ。距離はどれだけ離れている?」
ヴェルヒドの声に、ウィンダリュードは眉をしかめた。
「割と。神機で歩いた方がいいかもね」
少女は、ちらりと深花を見た。
「あんたのバランフォルシュ、確かあんたを殺そうとするのよね。あたしのバランフォルシュに乗る?」
「へ!?」
意外な申し出に、深花は目を丸くする。
「変な話じゃないでしょ?もともと一つの物が二つに分けられてるだけなんだし、中に入ったら動けないんだから危害は加えられっこないのは分かってるんだし。それに、お互いがお互いの人質って事で男連中は安心できるし」
今は協力関係にあるが信頼はない事を、ウィンダリュードは指摘した。
「……ジュリアス、異存はないわよね?」
確認すると、彼はしばらくしてから頷いた。
「では、案内してくれ」
ヴェルヒドはそう言うと、神機を召喚する。
ジュリアスもそれに倣い、レグヅィオルシュを呼び出した。
ウィンダリュードも神機を召喚し、深花の手を引いた。
「乗るわよ」
二人は、バランフォルシュに乗り込む。
「こっち……てぇ?」
歩き出しながら、ウィンダリュードは妙な声を上げる。
「デュガリアとかいう奴が、囲まれてるわ。急いだ方がいいみたい」
パリーイング・ダガーで相手の攻撃を受け流したデュガリアは、利き手で構えたエストックを振るった。
ひょいひょいと軽く振るわれた細身の刺突剣は、相手の目玉を正確に抉り出す。
「やれやれ……」
心底呆れた調子で、彼は呟いた。
「この程度の腕前で、僕に挑もうとは片腹痛い。分をわきまえないゴミクズ共が」
想定外のトラブルによって三人とはぐれてしまったものの、彼は余裕綽々だった。
神機を通じて探査をかければ、多少距離は空いているがジュリアスと深花が割と近くにいる事が探知できたからだ。
デュガリアと契約した神機は防御だけでなく、そういった補助にも優れた機体だった。
まずは二人と合流しようと歩き始めたデュガリアだったが、現地民にしてみれば彼は辺鄙な所を連れもなく一人で黙々と進む変人である。
殺して身ぐるみ剥いだ所で誰も気づきやしないと、即席で結成された強盗団が彼を襲ったが……第一波の男は今、手痛い代償を払ったというわけだ。
基本的におそろしくプライドの高いデュガリアにとって、こんな男をあてがわれたのは自分が見くびられたのと同義語だ。
だから慈悲とか容赦という単語を忘れ、くり抜いた眼窩から脳みそへ向けてエストックを貫通させる。
びくんと大きく震えた強盗は、力なく地面へ崩れ落ちた。