異界幻想ゼヴ・クルルファータ-13
「おっしゃってる事、本当なのかな?」
「……何を言われた?」
「自分がダェル・ナタルへの通行路を開くのは禁じられているけれど、開けてくれさえすればダェル・ナタルでの無制限の活動と協力戦線を保証するって」
しばらく、沈黙が落ちた。
「……は?」
ジュリアスの返事は、疑いに満ちている。
彼が信奉するのはレグヅィオルシュであり、深花ほど無条件にバランフォルシュを信じられないのだから当然の事だ。
しかし、すがれるものにはどんなものでもすがりたい現状でバランフォルシュに対する猜疑心を持ち続ける事に、意味も理由もなかった。
「ダェル・ナタルへの穴を開ける以外の、何か具体的な指示はあったか?」
「ううん。穴を開けてダェル・ナタルへ行きさえすれば、後はバランフォルシュ様の庇護下に入るって」
「ダェル・ナタルへ侵入できる人数は?規模は?」
「あまり大人数で行くのは好ましくないみたい。バランフォルシュ様への負担が大きすぎるし、あっちの人達に侵入がばれたら庇い切れなくなっちゃうし」
「人選が重要だな……」
呟いて考え込んだジュリアスだが、深花が腑に落ちない表情をしているのに気づく。
「どうした?」
声をかけると、深花はじっとジュリアスを見つめた。
「……泣いてなかったの」
「あ?」
「バランフォルシュ様、お会いした時はいつも泣いてるのに……泣いてなかったの」
泣いていたのが泣き止んだなら別に構う事はなさそうだとジュリアスは思うが、深花が引っ掛かりを感じているのが気に掛かる。
「何が気になる?」
問い掛けると、深花は首を振った。
はっきりしないけど気になるもやもや、という事らしい。
どうやら、気に留めておいた方がよさそうだ。
「とりあえず、ティトーに報告しとくか」
ジュリアスは自分の宝石を掴み、ティトーに向かって思考を送った。
簡単に報告を済ませると、驚きに満ちた沈黙が返ってくる。
『……どういう風の吹き回しなんだろうな』
困惑した風に呟いたティトーだったが、すぐに思考を切り替えた。
『穴を開ける準備は超特急で済ませる。そっちで、人選をしといてくれ』
『ああ』
思考が途切れると、様子を窺っている深花と目が合った。
「お前と、俺と、ティトー。最低限この三人は救出に行くとして、後は誰を連れていくか考えないと」
隠密行動が基本になるから、多人数は連れていけない。
しかし、何かのトラブルや救出時に予想されるドンパチなどを考えるとある程度戦闘力のある人材である事が望ましい。
しかもバランフォルシュの保証を素直に受け入れて、進んで加わってくれる人間だ。
「……一つ聞いていい?」
そんな条件を明かされると、眉間に皺を寄せて考え込みながら深花は尋ねた。
「あっちの世界……ラタ・パルセウムとダェル・ナタルって、そんなに空気が違うの?」
かつて生身でラタ・パルセウムを歩き回った経験のあるジュリアスにこそ聞ける質問を、口にする。
自分は二世界の混血だからすんなりとリオ・ゼネルヴァに馴染めたのかも知れず、自分の体験は当てにならないのだ。
その点この男なら、純血と呼んでもおかしくないくらい純粋にこの地の人間だろう。
「少なくとも、リオ・ゼネルヴァとラタ・パルセウムの空気はそんなに変わらねえな」
質問の意図を汲み取ったジュリアスは、そう答える。
「あっちの空気は埃っぽくてまずいくらいだ。けど、リオ・ゼネルヴァとダェル・ナタルの空気は……レセプションの時に、見ただろ?」
あの時の天敵の様子を思い出し、深花はごくりと喉を鳴らした。
見る間にやつれていく天敵達。
あのままリオ・ゼネルヴァに留まっていたら、間もなく息の根が止まっていたのは間違いない。