Crimson in ChristmasU-1
街中がお祝いムード一色に染まってる。が、はっきり言ってオレは関心ないからどうでも良かった。……この時までは。
「行かないの?」
リーが尋ねてきた。
今年も後10日程となった今日、部屋に来たリーが開口一番に振ってきたのがあの賑わいの話。
「興味ねぇ。ただの点灯式だろ。楽しいか?そんなの見て」
「楽しいってわけじゃないけど……でも……」
床に視線を落として、ゴニョゴニョと言葉になってない何かを口から発してるけど、さっぱり聞こえない。ついでに言うと、そんなのに行けるような体力的余裕はないってのが本音だ。
「その日は前日から夜警だし、夕方は寝てる」
「あ……そうか、……仕事、なんだ……」
小さくリーの両肩が揺れた。ずっと下を向いたままのリーの方へ手を伸ばしてみるが、急に顔を上げたから思わず止まった。
「リ」
「仕事ならいいよ。今日はもう帰るから」
笑ってそう言うと、カバンをひっつかんで部屋を出ていった。
*
あれから数日、リーは全く目も合わせやしねぇし、素っ気ない態度だ。……それでもオレの部屋に欠かさず来るのは尊敬に値するところではあるけど。
しかし、分からん。クリスマスってそんなに大事なモンか?
いくら考えても、やっぱり分かんねぇな。
「面倒以外のなにものでもねぇだろ……」
ボソッと口を突いて出たのは、本心だ。あれは恋人だの家族だのに執拗に根付いてる祭り事なだけだ。……が。
「何が面倒なんだ?アーク」
座っていた机を軽く叩く人物を見上げると、自然と息が詰まった。それは見事に青筋立てたヒューイがそこに居たからだ。
手元の紙には5行ほどの文章が書かれているだけで、半分以上が真っ白。それに視線を落としていたヒューイが大きく溜め息を吐いた。
「どれほど進んだかと思えばそれだけか」
「あ…、わりぃ…」
ヒューイに半ば強引に与えられた通訳の仕事をこなす為に資料室に閉じ籠ったのが朝イチ、薄汚れた部屋の窓から見える陽の明るさから察するに今は真っ昼間だ。
「"また"喧嘩したのか」
呆れながら、ヒューイは近くの本棚に凭れ掛かる。
「……喧嘩じゃねぇよ」
多分、……自信ねぇけど。
何かあればすぐに喧嘩だと言われるのは癪だが否定できない。前回は2週間位前、その前は更に1週間前にやらかした。あン時はガキだって言い過ぎたもんだから、リーがリアナに泣きついて散々な目に合った。その時のリアナのイヤミはなかなか聞いているのが辛くなるモンばっかりだった。
それを思い出してゲンナリしてると、ヒューイが小さく溜め息を吐いた。
「お前は分かりやすい。感情の起伏がリー次第だ」
「…………」
絶対コイツにだけは言われたくないって思った。コイツ程女に振り回されてる奴はいねぇよ。
「何だ?」
「いや、何でもナイ」
ばか正直に言おうもんなら、明日から仕事の量が倍増すること間違いなしだからな。触らぬ神に祟りなしって言うだろ。
「今回は原因はハッキリしてるんだよ」
「ほう」
「価値観の相違だ」
そう。ただの価値の違い。それだけだ。
「なら、その『違い』を相手に話したのか?アーク」
どういう意味だ??
「ちゃんと言わなければ、互いに理解されることも理解することも難しいだろう。ただ『自分はこうだ』と言うだけなら、本意は伝わってない」
そのものズバリだな。
「もう少し話してやらないとな。大事なら尚更だ」
……そりゃそうか。そうだよな。なんでこう不器用なのかね、オレって。
「落ち込むならそれが終わってからにしろ。それ、明日に女教皇に渡すんだからな」
「ぐ」
言い残して部屋を出ていったヒューイを見送って、小さく溜め息を吐いた。
性格的にアイツはこれ以上何も言わないだろう。オレがそう言うもんだって思うだけで、自分のコトなんざ喋ろうとしないのは目に見えてる。
一時のモンなら良いけど、そういう訳じゃねえし。取り敢えず話はしないとな。
*
「な、何してんだよっ」
リーが世話になってる家の前で待つこと、暫し。学校から帰ってきたであろうリーがこちらを見つけて歩みを止めた上に困惑げに眉を寄せてた。
そりゃそうだ。昼間まで仕事だって言ってたから、この時間は部屋で寝こけてると思ってたんだろうから。
「『何も』ねぇっつーの」
突っ立ったままのリーに歩み寄り、そう言うとオレはこいつの腕を掴んで無理やり歩き出した。
「!? ドコ行くのっ?」
引きずられる様に歩くリーが慌て声を上げたが、無視だ。
「オレも大概だけど、お前もなかなか頑固だよな」
「は!?」
「良いから行くぞ」
訳がわからず、『何!?』とか『ドコに』とか言ってるけど、丸々全部無視。嫌がらずに抵抗しないのは一応付いてくる気があるってことだと思っておこう。