栄子 前編-4
世間知らずなのか天然なのか、栄子は俺の言葉に従って家に上がりこんできた。
布団が敷きっぱなしの部屋はさすがに警戒されるだろうから、俺は居間に栄子を通した。
母親がいつも男と交わっているじゅうたんの上に薄っぺらい座布団を置くと、栄子は何の疑いもなくそこに腰を下ろした。
俺は栄子の斜め横に座りながら、その全身に改めて視線を這わせた。
こうして間近でじっくり観察してみると、想像以上に膨らんでいるTシャツの胸や短いスカートからのぞく白い足がやけに生々しく俺の欲望を刺激する。
うつむき加減で不安げに視線を泳がせている心細そうな表情がひどく扇情的で、俺は股間がジンジンと熱くなるのを感じていた。
それまで俺は、同級生の女子には全く興味を抱いたことがなかった。
麻理こそが女の象徴であり、全てだったからだ。
しかし今目の前にいる、「妄想ではない」生身の女の肉体が、圧倒的な吸引力で俺をあらぬ方向へと導き始めている。
それは、無知で、非力で、無防備な―――俺の初めての獲物だった。
「……なぁ……」
俺は栄子に気取られぬように、生唾をゴクリと飲み下した。
「……な、なに……」
「こうして近くで見ると……小林って……肌、綺麗だよな……」
その一言で部屋の中が一気に淫靡なムードに変わったのがわかり、胸がドキドキしていた。
「……えっ?な、なに言ってんの急に」
途端に顔を真っ赤にしながら栄子がもじもじと俯く。
「いやホントに……腕とかも白くてすげぇ綺麗。ちょっと……手、見せてよ」
「や……やぁよ。なぁに?」
いつもの栄子とは違う甘えた口振りから、まんざらでもないことは明らかだ。
「いいから見せてよ……俺さ……実は……前から……小林のこと可愛いなって思ってたんだ」
俺は適当な言葉を並べながら、自分から栄子のそばにぐっと身を乗り出し、強引に手を握った。
「あっ……ちょ……ちょっと……」
触れられてうろたえる栄子は学校で見るのとは全く別人のようで、そのギャップが俺の欲望の火に更なる油を注ぎこんだ。
「……ね……な、なんか……私に話……聞いて欲しいんじゃないの?」
この妖しいムードを断ち切ろうと必死に明るく振る舞う栄子。
しかしこの優しい言葉が俺にとっては都合のいい足掛かりになった。
「……じゃあ……聞いてもらおうかな……」
「う、うん……な、なあに?」
どこまでも純粋な栄子。
俺は握った手に力を込めながら、栄子の瞳をじっと見詰めた。
「……小林……はさ……学校楽しい……?」
口では悲しげな声を出しながら、頭では一刻も早く栄子を裸にしたいとばかり考えている。
「そ、そりゃあ……友達がいるし……」
「……友達か……友達なんて……薄情なもんだろ」
これは本当のことだから説得力がある。
前は仲の良かった俺の友人が、蜘蛛の子を散らすようにみんな離れていってしまった経緯を、栄子も目の当たりにしているのだから。
「俺……もう……誰も信じられないんだよね……」
俺の言葉に、栄子はかなり心配そうな表情で手を握り返してきた。
自分ならば俺を救えるとでも思っているのだろうか。
小五の恋愛感情なんて単純なもので、誰かが自分を好きだと言えば、自分も急にそいつを異性として意識しはじめる。
俺に可愛いと言われた栄子も例外ではなく――おそらく、ついさっきまでは栄子の中で単なるクラスの問題児だった俺を、今は一人のオスとしてバリバリに意識しているのがハッキリとわかった。
「……だ……大丈夫……あたし……あたしが友達になったげる……」
期待通りの展開に、腹の中でニヤリとほくそえむ。
「……小林は逃げない?……他の奴らみたいに……」
俺は座ったまま栄子の背後に素早く回り込んで、背中全体を後ろから包みこむように両腕を回した。
「……あっ……川瀬…くん……」
栄子の首筋から匂いたつフェロモンは、メスと呼ぶにはまだまだ幼いものだったかもしれないが、この時は十分すぎるほど俺の本能を刺激してきた。
「―――少しの間、こうしてていいか?」
「……い…いいけど……」
俺は栄子が逃げないように言葉で縛りをかけながら、栄子の背中に身体を密着させてその柔らかな肉体の感触を堪能した。
これが女の身体………。
下半身が硬く熱を帯びていくのがわかる。
窓から西日がじりじりと差し込み始め、部屋全体が燃えるようなオレンジ色に染まっていた。