栄子 前編-2
五年生に進級してクラス換えがあったが、俺の無気力は変わらなかった。
新しく担任になった若い男性教諭は俺のような生徒を受け持つのが初めてだったらしく、出来る限り俺との接触を避けているのがありありとわかった。
お前さえいなければクラスはうまくまとまるのに―――。
そう言わんばかりの教師のあからさまな態度に、俺はますます学校に行く気力が失せていった。
問題は何も解決しないまま春が終わり、季節は夏に移り変わろうとしていた。
その日も俺は、午後から授業をさぼってふらふらと家に戻って来ていた。
母は掃除婦のパートに出ているため、日中は家に誰もいない。
俺は自分の部屋に戻って、敷きっぱなしの布団の上にごろりと身を横たえた。
ムシムシとした湿度のせいか身体が重く、何もする気が起きなかった。
クーラーをつけてぼんやり天井を眺めていると、麻理のことが頭に浮かんだ。
麻理はあの出来事以来、公園に来なくなった。
家が隣だからたまに顔を見かけることもあったが、口をきくことは一度もなかった。
三人の男たちに押さえつけられ、凌辱されていた麻理の姿は、今でもハッキリと俺の脳裏に焼き付いている。
「……麻理……姉ちゃん……」
俺はズボンの上から、既に硬くなっている自らの股間をさすり始めた。
もみくちゃにされる麻理の白い乳房。
三人の男たちに代わる代わる舐めしゃぶられていたピンクの乳頭。
くびれた細い腰。
そしてぬらぬらと妖しく輝く卑猥な陰部。
コマ送りの映画のように、記憶の断片を頭で繋ぎあわせながら、俺は夢中で硬いこわばりを弄る。
亀頭部分に爪を立てるように刺激を与えながら、裏側の筋にそうように肉幹を摩擦すると、先端から染み出したカウパーが下着に小さな染みを作った。
「う………はぁっ………」
俺はズボンと下着をずらして、剛直したペニスを取り出した。
あのことがきっかけで覚えたマスターベーション。
その行為を何度も繰り返すうち、幼いながらに自分の身体のどこをどう刺激すれば快感が得られるのか、少しずつわかるようになってきていた。
これは異常な行為だ。
こんなことはやめなければ―――。
そう思えば思うほど、俺はその麻薬のような快楽にのめり込んだ。
女のアソコにコレを入れたら、どんな感覚なのだろう―――まだ触れたことのない女の肉体への興味が、俺の中で急激に膨らんでいた。
クラスメイトがみんな夢中になっているゲームやアニメなどが、ひどくガキ臭く、下らないことのように感じられた。
俺は麻理の濡れた股間に、自らのモノを挿入するところを想像しながら、ペニスを直接しごきたてる。
ジワジワと込み上げてくる痺れるような快感。
下半身にぐんぐんと熱が集まって、頭がクラクラしてきた。
「麻理……麻理姉ちゃんっ……」
苦痛と快楽に歪む麻理の顔と喘ぎ声が頭の中に響き渡る。
あと少し………
あと少しで………
そう思った瞬間、玄関チャイムの音がけたたましく鳴り響いた。
ハッと我に返ると同時に、気をそがれて射精感が一気にひいていくのがわかった。
俺は慌ててズボンを引きずりあげて立ち上がった。
父が自分を迎えに来たのではないか――――。
何故かそんな予感がして、大急ぎで玄関に駆け寄り扉を開く。
しかし、そこに立っていたのは―――クラスメイトの小林栄子だった。
「……小林?……」
あまりに予想外な人物だったので、俺の脳は一瞬フリーズしたように動かなくなった。
五年生になって初めて同じクラスになったこの女子と、俺は今まで一度も言葉を交わしたことがない。
「……何?……なんで小林が?……」
「なんでって……宿題、先生から預かって来たから」
学校を休んだり早退したりした場合は、近くに住むクラスメイトが宿題や連絡を届けてくれることになっている。
俺の近所にも何人かクラスメイトは住んでいたが、苗字が変わってからというものは、今まで仲のよかった友達がだんだんと離れていくようになった。
その中の一人に俺はこう言われたのだ。
「お前の母ちゃんはバイタだから、お前と付き合っちゃ駄目なんだって」
こうして、俺のところに宿題を持ってきてくれる友人は一人、二人と減っていった。
栄子の家は近所ではなかったが、一応帰り道にはなるし、彼女が学級委員ということもあって、先生が名指しで頼んだのだろう。