上級悪魔と下級契約者―愛と海水浴の危険性に対する考察―-1
「どうしてこうも人は戦いたがるのだろう」
足下に転がる人を見ながら、道条堂太郎は呟く。
そして、愛銃のG19に弾を込めた。
『パン…』
「敵襲か!」
近くにあった木の葉が目の前で木っ端微塵になり、堂太郎の目に入る。
「チッ!」
堂太郎は、軽く舌打ちをすると、涙でかすむ目を頼りに近くの木の後ろに逃げ込む。
「くそ、油断した」
頭に当たる硬い感触。
「っ!」
いつの間にか後ろをとられていたらしい。
「悪いな」
後ろの人物が引き金を引く。
そして、すぐに走り去る。
堂太郎が最後に見た風景、それは…
「…可憐だ」
その人物の後ろ姿だった…
翌日、学校で高槻楓は怒っていた。
「サバゲーをやるなんて聞いていなかったぞ!」
理由は、前日に半強制的にサバイバルゲームに参加させられたせいである。
「言ったらお前は、来なかっただろう?」
言わなかったのが当然とばかりに神宮司暁は言う。
暁は、楓と同じ学校に通う一見真面目そうな男で、楓とは、一年前にある事件が切っ掛けで知り合った。
「そもそも、感謝されるんならともかく、非難されるいわれはない」
暁はそう言うと、一瞬後ろに目を向ける。
そこには、裕美と話すエクソシストの姿があった。
「どこまで、調べられた?」
楓が聞くと、暁はファイルを取り出す。
「まぁ、こんなところかな」
楓は、ざっとファイルに目を通す。
「さすが、探偵部ってところか」
楓は、暁に記憶をなくしたエクソシストの調査と学校に転入させるための各々の資料の偽造(犯罪)を頼んでいた。
「名前、加藤真夜。年齢、16。出身地不明。親兄弟の日本での目撃証言は無し。出所不明の金で各地を転々としている…か。いつも思うんだが、お前等探偵部にはどんな情報網があるんだ?」
「トップシークレットだ。まぁ、ここまで無償で調べてやったんだから、サバゲーぐらいで怒るなよ」
「…まぁ、そうだな。あと、これからも頼む」
楓は、そこで一応の納得を見せる。
様々な依頼を抱えている探偵部部長に無理をして、最優先事項として私事を無償で調べてもらっているいじょう、あまり文句を言える立場ではないのだ。
「親兄弟がいないって事は、あまり急いで記憶を戻す必要も無いか…」
「いや、そういうわけにもいかんと思うぞ」
楓の独り言に、暁は律義に答えを返す。
「…プロとして裏付けのとれていない情報を依頼者に言うわけにもいかん…か」
「どういうことだ?」
『キーンコーン』
「…もう時間か。自分のクラスに帰るとするか。今の件については、いずれ話す」
暁はそう言うと出口から出て行こうとした。しかし、途中で立ち止まる。
「今日、お前のクラスに転校生が来るらしいぞ。…災難だな」
暁は、それだけ言うと今度は本当に教室から出て行った。
「災難…?」
楓は、暁の最後の台詞に嫌な胸騒ぎを感じつつも席につくのだった。
高らかにパワーフォール(プロレスラー、長○力のテーマソング)がクラス中に鳴り響く中、楓たちのクラスの担任教師、三沢敬二が教室に入ってくる。
「おい!おい、お前達!おはよう、おはようございます!」
三沢は、教壇に立つなり首に巻いていたタオルを投げ捨て、テンション高めの挨拶をする。
「今日は!今日はお前達に重要な知らせがある!新しいスーパースタ…、じゃなく転入生の紹介だ!」
三沢の話が終わると同時にクラスに別の曲が流れ始めた。
『ノーチャンス!イン・ヘール!』
「今度は、ビンス・マク○ホンかよ…」
何処からともなくそんな呟きが聞こえる。
「三沢先生!周りのクラスの迷惑を考えてください」
「うるさいぞ!三沢!」
隣のクラスの教師達が怒鳴り込んでくる。
だが、そんな事を気にする三沢ではなかった。
全てを無視して高らかに叫ぶ。
「どぉ〜じょう〜!ど〜〜〜たろぉ〜〜〜うぅぅ!」
三沢の声と共に一人の男が恥ずかしそうに教室に入ってくる。
「かわいそうに…。あんな教師のいるクラスに転入して来たばっかりに…」
「見ろ、今にも泣きそうな顔してるぞ」
クラス中から同情の声があがる。
「今日こそ三沢をしとめろ!」
「ツープラトンだ!三沢を捕まえろ!」
「俺を怒らせたのはたいしたものだよ。俺は怒ってないが、俺を怒らせたらたいしたものだよ」
そして、教壇付近では、教師三人のハンディーデスマッチ、無制限一本勝負が始まっていた。