上級悪魔と下級契約者―愛と海水浴の危険性に対する考察―-3
文芸部部室にて
「あ〜、俺はやっぱり人から見たら女なのか…」
楓は、部屋の隅で膝を抱え座りながら呟いた。
「そうですね〜。私も初めて先輩に会った時は女だと思いましたから」
頼んでもいないのに、後輩の紀宮桜が落ち込むような返事を返してくれる。
そして、それを聞いた楓はさらに落ち込んでいく。
「どうせ俺は女顔だよ。町を歩くと10分に一回の割合で男にナンパされるような男ですよ…」
「な〜に言ってるんですか〜。5分に一回の割合でナンパされるじゃないですか〜」
…さらに、楓は落ち込む。
「そ、そんなことより、今日はアン先輩はどうしたんですか?」
一分、一秒毎に暗くなっていく楓を気遣ってか、板倉が話題を変えようとする。
ちなみに、部室には、楓、桜、板倉、そして、机に向かい必死に何かを書いている金本の四人しか居ない。
「ん…ああ…」
奇妙な間。
妙な沈黙がしばらく続く。
「え〜と、今頃海水浴…かな」
楓は、微妙な笑みを浮かべながら歯切れ悪く言う。
「学校を休んでですか?」
「あ〜、うん、突然のことだったから…ね」
楓は、目を軽くそらしながらそう言う。
「…そうですか」
板倉は、何か変に思いながらも一応納得をする。
「出来たー!」
金本、ガッツポーズをとりながら叫ぶ。
驚く楓と板倉。
「何が出来たんですか?」
いたって冷静な桜。
「小説だよ。文化祭に出す冊子に載せる」
金本はそう言うと原稿を楓に渡す。
「ちょっと、チェックしてもらえますか?」
「どれ…」
楓は、原稿に目を落とす。
『こんにちわんこそばと言う言葉の危険性について―』
「金本…。殴っていいか?」
楓は、八割程本気でそう言う。
「ちょっ、待ってくださいよー!せめてもう少し見てから決めてくださいよ」
「…わかった」
『―言葉で言う場合は大して問題はない。しかし、この言葉をメールで送る際に何かの間違いで『わ』という字を打ち忘れたら、こんにち―』
「…金本」
「なんですか?楓先輩」
「俺の熱いパトスを止めてみろーー!」
楓は、そう言うと悪魔の契約者としての力をほぼ出し切ったパンチを繰り出す。
それはもう人には見えない速さで躱せるわけもなく
「ひでぶっ」
金本は、3メートル程後方に吹き飛んでいく。
「書き直し!」
楓は、そう言うと原稿を倒れている金本に叩きつける。
「容赦無いですね…」
板倉は、引き攣った笑みを浮かべながらゆっくりと楓の視界に入らない位置に移動するのだった。