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上級悪魔と低級契約者
【コメディ その他小説】

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上級悪魔と下級契約者―愛と海水浴の危険性に対する考察―-4

「か〜〜え〜〜で〜〜」
楓が金本の原稿の監修をしていると、部室の入り口からまるで地の底から響いてくるような声が聞こえてきた。
「あれ?アン先輩、今日は海水浴じゃ―」
板倉が声をかけるが、アンはそれを無視して楓の方へ歩き続ける。
「よぉ、元気?」
楓はなぜか引き攣った笑みを浮かべながらアンに声をかける。
「元気?ほぅ、言うに事欠いて元気ときたか…」
アンは、暗い笑みを浮かべながら楓を見る。
「ほら、人間どうしようもない事ってあるじゃん」
楓、後ろにさがる。
どんどん楓に近づくアン。
楓、追い詰められる。
「どうしようもない?人に罪を擦り付けておいて、どうしようもない?」
「…先輩、何があったんですか?」
板倉は、さすがに何があったのか気になり質問した。
「いや〜、朝ちょっとした手違いで『や』の付く自由業の若頭っぽい人に石をぶつけちゃって―」
「その後やってきた組員に私を気絶させて引き渡したんだよ。犯人として」
楓の言葉にアンが続く。
「気がついたら、身体半分コンクリート詰めにされてるし、海水浴とピクニックどっちが良いとか聞かれるし―」
「ああ、それで海水浴か…」
板倉は、さっき楓が言っていた事を思い出す。
「コンクリート壊して逃げようとしたら、後ろから銃弾は飛んでくるし―」
アンは、周りのことを無視して話し続ける。
ちなみに、楓はアンが話している最中、なにやら部室の隅で何かをいじっている。
「―俺は、その場に落ちていた棒を拾って銃口に突っ込んで―」
アンの『凶暴な人々』に襲われた苦労話はまだ続いている。
ちなみに、聞いている人間は誰一人居ない。
「胸に北斗七星の形の傷のある男が―」
部員達は、楓に言われ部室から出て行く。
「南斗水鳥拳で―」
アンは、その事に全く気付かない。
部室の隅には、なにやらコードの繋がっている箱が一つ。コードの先にはスイッチらしき物が繋がっており、スイッチは楓の手の中にある。
「奴の脂肪はゴムのようで、俺の攻撃はいっさい―」
楓は、アンがまだ話し続けているのを確認すると、自分も部室から出て行く。
「―で、なんとか俺は逃げてきたわけだ」
「爆破ー!!」
アンが話終わったのと同時に、楓は手元のスイッチを押す。
すると、部室の隅にあった箱に光が収束する。
「いったい、なん―」
『っどーん!』
部室の中から激しい爆発音。
その後、ドアの隙間から妙な白い煙が出てくる。
楓は、ハンカチで口をおさえると、部室のドアを開く。
部室の中では、アンが白い粉にまみれて気絶している。
「いったい、何をしたんですか?」
楓と同じ様に口をハンカチでおさえた板倉達が、楓に質問する。
「最近、偶然にも記憶喪失の女と出会ってな―」
楓は、そう言いながらポケットからライターを取り出す。
「記憶喪失の仕組みについて、調べられたんだ」
楓は、ライターに火を付けてアンの周りの粉をあぶる。
「それとこれと何か関係が?」
「この粉な、俺が作ったその日一日の記憶を消す粉」
板倉達は、怪しげな目で楓の方を見る。
「それ、麻薬とかじゃ?」
「大丈夫、詳しい成分は秘密だが、沖縄のきれいな海の塩とかトカゲの尻尾とかトリカブトの根とかしか使ってないし」
楓は、そんなことを言いながらも作業を進める。
「体に悪影響とかは?」
「記憶喪失自体が悪影響だろう」
『そう思うならやもろよ』
今の楓にそんなことを言える武士は、今の部室には居なかった。
「お〜い、起きろ〜」
楓は、作業が終わるとアンの頬をピシピシ叩き、アンを起こそうとする。

「う…うぅ〜ん…」
アン、目を覚ます。
「何、部室なんかで寝てるんだよ〜」
楓、ほがらかな笑顔を浮かべながら言う。
「…」
アン、ジーッと楓の顔を見る。
「どうした?」
楓、薬の効き目が無かったのか心配になる。
「…おにいちゃん、だぁ〜れ?」
アン、妙にかん高い声で楓に言う。
部室の時間が止まる。
「ここ、どぉこ?」
アン、周りを見回す。
アンの身体、徐々に小さくなっていく。
部員達、部室の隅に集まる。
「よ、予想外の展開に…」
「どういうことですか?幼児化するなんて…」
「子供の頃のアン先輩、けっこう可愛い…」
「てか、俺の原稿も粉まみれなんすけど…」
…話の噛み合わない四人。


結局、二時間後になぜか(楓の必死の魔術の賜物)元に戻ったアンに、楓が土下座をしたのはまた別の話である。


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