投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

悪魔とオタクと冷静男の最初へ 悪魔とオタクと冷静男 25 悪魔とオタクと冷静男 27 悪魔とオタクと冷静男の最後へ

オタクと冷静男と思い出話-9

「……何だよ」
「いえ、幸一郎さんは本当に飽きさせない人だなぁ、と思ったんですよ。――あ、ちなみにこれは褒め言葉のつもりですから」
「…………どうも」
「あら、嬉しくなさそうですね」
「そんなことないぞ。やったー遠矢に褒められたー」
「……」
「……おい、黙るな。それと、視線に哀れみを込めるのもやめろ。惨めな気分になる」
「すいません……まさかここまで病んでいるとは――」
「……それはそれで腹が立つ言い方だな。僕は正常だ」
「ええ、分かってますよ。分かってますからもう何も言わなくてもいいんですよ」
「おい、その病人に嘘をつくときのような変な微笑みと、諭すような返答は何だよ」
「いえ、何でも……ああっ」
 言葉の途中で不自然に口を押さえて顔を背ける桜子。
 ぱっと見、ドラマとかで在りがちな『結構重い話し中に、思わず涙を堪えきれなくなってしまった人C』に見えなくもないし、それを真似しているのだろう。でも、実際は泣くような話なんて全然してないし。
「……」
「ご、ごめんなさい、急に泣いたりして。気にしないで下さいっ」
「安心しろ、最初から気にしてない」
「…………つまらない人ですね、幸一郎さんって」
 顔を上げ、こちらを半眼で見ながら言う桜子。さっきまで泣いていたはずのその顔に、涙の痕跡は皆無だ。
 ここで少し思案。
 どんなに頑張ってまともに相手をしても、最終的にはあっちのペースに巻き込まれて、いいように遊ばれるだけだ。――相手がつばさならそれもいいかもしれないが。
 つばさと一緒にいるのも悪くない、と言うかむしろ大歓迎だし、笑顔を見れる機会も増えて、もしかしたらそれ以上、こう、何と言うか……どうよ!?
 ……って、まずい。話が壊れ気味な上に逸れてるし。いや、壊れ気味は僕の頭か?
 てゆうか、自分で言うのもなんだが、それ以上ってなんだよ。桜子の妄想癖が伝染ったのだろうか……?
 ため息を一つ。
「なあ、遠矢。ふと思ったんだが、人間って簡単に変わるんだな。…………救急車はいらないぞ?」
 無言で携帯を取り出した桜子に釘を刺し、ここではないどこかに目を向ける。
「……さっきまで表情を緩めたり苦しんだりしてると思ったら、急になに遠い目をしながら奇言を述べてるんですか。どう考えても救急車ですよ」
「ああ、なんかそれでもいいかな。勝手にしてくれ」
「……」
「ん? 救急車は呼ばなくていいのか?」
 僕の問い掛けを無視して携帯を片付け、ついでに冷たい視線を投げかけて、でも、すぐに視線を逸らし大きなため息を吐く桜子。
「――で、さっきまでの話ですけど」
「そんなに急ぐこともないだろ? つばさ曰く、会話はゆとりを持って楽しむものらしいからな」
「惚気は結構です。真面目に行きますよ? いいですね? はい決定っ! 文句はオール却下します。――と言うことで話を続けますよ。返事は?」
「……ハイ」
 今の言葉を聞いて、内心、真面目にできるなら普段からそうしていてほしい、と思ったり思わなかったり。
 しかし、桜子だけ真人間になっても、まだ長谷部がいることに気付いた。一人バカが減ったところで平穏が訪れることがないなら、どっちでもいいと思い直す。
 そんなこっちの思いを知ってか知らずか、桜子は真面目な顔のままで続きを述べる。
「というわけで、これから先は真面目度を当人比で五割り増しにして行きます」
 いつを基準に五割かは分からないが、とりあえず(自称)真面目さ五割増しな表情を作る桜子。
「その発言で場の雰囲気はマジメさ五割減のような……」
「流します。ええ、流しますよ。とにかく閑話休題、漫才をしている暇はありません」
 確かに真面目さは五割り増しらしい。話を流すときに、言う必要もないのにわざわざ宣言する辺りが。そんなところだけ増えても、まったくの無意味だとは思うけど。
 てか漫才……。
「…………で? どんな話してたか思い出したんだろ」
「ええ、確か、お二人がコップを探しに行ったとき、台所で何があったか聞いたのに、適当にはぐらかされたんです。――で、何があったんですか?」
「さあ……?」
「さあ、ってそんな他人事みたいに……。大宅さんの挙動になにか変化はなかったんですか?」
「いや、本当に何もなかったんだが」
「……やっぱり幸一郎さんじゃあ話になりませんね。気持ちの変化には疎そうですし」
 桜子はやれやれと言った感じで吐息。
「……なら聞くな」
「でも、大宅さんがいないからには無意味でも幸一郎さんに聞くしかないですし」
「……」
「とにかく、台所でのやり取りを細大漏らさずに話してください。順を追って考えていけば、いつかは答えが出るはずですから」
「ああ……」
 釈然としない。が、話さないことには進展がないので、仕方なくさっきの出来事を話しはじめた。


悪魔とオタクと冷静男の最初へ 悪魔とオタクと冷静男 25 悪魔とオタクと冷静男 27 悪魔とオタクと冷静男の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前