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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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オタクと冷静男と思い出話-10

一方で長谷部は、
「むぅ……」
 なぜか五十嵐との待ち合わせ場所に向かわず、道端で携帯を睨んで唸っていた。
「待ち合わせ場所が分からん……。こんな時に限って携帯の電池は切れるし……」
 先ほど道に迷ってすぐ五十嵐に電話したものの、通話を始めて十秒もしないうちに切れてしまい今に至る。
 だが、すぐに気持ちを切り替え、
「まあ、いいか。すぐに戻ったりしたら栗花落くんと桜子くんのジャマになるだろうからな」
 我ながら後輩思いの良い先輩だな、と呟き歩きだす。
「大宅くんもいるし、道を踏み外すことはないだろう」
 もちろん、つばさが帰ったことなど知る由もない長谷部。
「……ん、まてよ、複数プレイという手があるか!? くぅー、戻ったら詳しく感想を聞かなくては! それにしても、栗花落くんは女みたいな顔してなかなかやるなぁ」
 などと中年親父のような感想を漏らしながら、長谷部は当てもなく歩き続けた。
 ……彼女が公衆電話というものの存在に気付き五十嵐と連絡がとれるのには、これから三十分も必要だったりする。

「そうですか。分かりました」
 僕は桜子に一通りのこと(そんなに大した量じゃないが)を話し終えた。それに対する桜子の反応は、淡泊としか言い様がないものだった。
「で、何か分かりそうか? 名探偵サン」
「……話を聞いた限りでは、幸一郎さんの部屋から戻ってきてから態度がおかしくなったんですね?」
「ん、いや、態度がおかしかったのは帰ってきた後辺りかな」
「始まりはそうだとしても、怒った引き金は幸一郎さんの部屋で何かがあったからでしょうね、きっと」
「は? 何でそうなるんだ?」
「…………?」
 一瞬間を空けて、すぐに表情を変化させる桜子。それは疑問から驚嘆へと。
「……えっと、冗談、ですよね?」
「本気だ」
 さらに驚く桜子。
「れ、冷静に、ここは冷静になりましょう幸一郎さん!」
「いや、まずはお前が落ち着けよ……」
 僕の忠告を無視して変なテンションで続ける桜子。
「えーっとですね……そうです! まずは現状確認からいきましょう!」
「……」
「まず、大宅さんが怒って帰ったのはいいですね?」
「……ああ」
「次に、わたくしたちはその理由を考えていた」
「そうだな」
「そこで幸一郎さんの話を聞いて、幸一郎さんの部屋で何かあったのではと……」
「だから、そうなる理由が分からないって言ってるだろ」
「理由って……、どう考えてもそれ以外ありませんよ!?」
「いや、買い物から帰ってきた時点ですでに機嫌悪かったみたいだし。だから帰ったんじゃないのか?」
「……それなら普通、わざわざこちらに来ないで自分の家に帰ると思うんですが」
「――あっ」
「……気が付かなかったんですか?」
「……」
 気まずい。よほど気が動転していたのだろう、こんな事にも気付けないなんて。
「まあ、今回は何とかこうして気付けたからよかったですけど、次からは注意しないと本当に嫌われてしまいますよ?」
「うっ、肝に銘じておきます……」
 呆れ顔でため息を吐く桜子と、ひたすら小さくなる僕。
「とにかく、幸一郎さんの鈍感さは後でじっくり話すとして」
「……」
 わざわざ傷をえぐるような非人道的な真似を……。
「幸一郎さんの部屋でも見て、嫌われた理由の一端を見つけることにしましょうか」
「…………ああ」
 傷口をえぐられて、さらにそこに塩を塗り込まれた気分。身から出た錆だからしかたないけど。


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