Crimson in Christmas-3
「欲しいもの、見付かった?」
ソファに座って、食後のコーヒーを飲むリアナが微笑む。
「……うん。無いよ」
「そっかあ」
欲しいのなんて、無い。…………でも。
「その、……欲しいの無いけど…………あの……して欲しいことが……」
言いにくい。すっごく言いにくい……。
リアナが覗き込むようにわたしの顔を見ると、頭を撫でる。
「どうしたの? 言ってごらん?」
「あ、のね……その、…………今日、リアナたちの家に行っても良い……?」
リアナがヒューイと顔を見合せた。
やっぱり、ダメだよね。クリスマスって大事な人と過ごす日だって聞いたし……。
「良いよ」
「えっ でも……」
自分で言い出しといて、何か気が引けてしまった。
リアナからヒューイに視線を移してみるとヒューイも笑ってた。
「何を気にしてる? 構わないよ」
「ホントに?」
「うん。良いよ」
リアナとヒューイが笑って許してくれて、遠慮してしまいそうになった気持ちは無くなった。
あまり遅くならないうちにってことで、早々にお泊りの準備をして、リアナたちの家に付いて行った。
*****
リアナとヒューイとこの国に来る一週間前にギュッと抱き締められて眠れるのが嬉しかった。
今でもたまにそれが欲しくなる。
急に寂しくなる。もうお母さんはいないから。
「…………リーちゃん」
ハッと我に返って、リアナを見ると白いものを手渡された。
「?」
「ヒューイと私からのクリスマスプレゼント」
「え?」
手のひらに乗せられた小さな白い紙袋。……コレ、何だろう?
「多分、思い付かないんだろうなって思ったから、2人で考えたんだよ。大したモノじゃないけど、気に入ってくれたら良いんだけどね」
「あ…けていい?」
「どうぞ」
何かを誰かから貰うのは2度目。
ちょっとドキドキしながら、紙袋の中から取り出してみた。
「…………髪留め?」
白と褐色の石が交互で一列に並ぶ、綺麗な髪留め。
「リーちゃんの髪、伸びてきたから、そう言うのでも良いかなって思って」
「あ………ありがとっ! 嬉しいよ、リアナ! ヒューイ!」
正面に座るヒューイとわたしの隣に座るリアナにお礼を言った。
「喜んでくれて良かった。ほら、お揃い」
青と透明の石が並ぶ髪留めを取り出したリアナはそれを自分の髪にパチンと留めてみせた。
「付けてあげるね」
リアナはわたしの髪を手で梳くと髪留めを付けてくれた。
「ありがとうっ」
嬉しい。嬉し過ぎる。面と向かって物をもらったのは初めてだから、凄くドキドキしてる。
そんなことしてくれる人なんて居なかったから、泣きそうになった。
――――
―――
――
―
「……温かい……」
リアナにぎゅうってされてベッドの中で寝転がる。ちゃんとヒューイも居てくれてる。
最初はリビングで寝るって言うヒューイを皆で一緒に寝ようって誘うのはちょっと大変だった。リアナの『リーちゃんは3人が良いんだよ』の一言で渋々頷いてくれたんだ。
邪魔してるわたしが言うのもなんだけど、今、すごく幸せかも。
「どしたの? 母さんトコじゃ居づらい?」
リアナは髪を撫でながら、少し寂しそうに笑った。
「違うよ。……あのね…………リアナってお母さんみたいで温かいんだ」
「……そうなの?」
「うん。だから、こうしてると安心するの」
リアナの胸に顔を寄せて、その温かさに安心して息を吐いた。
「それなら俺はいらないだろ?」
後ろからそんな声がした。振り返れば、ヒューイが微苦笑を浮かべていた。
そしたら、何故だろう、居なくなりそうな気がして、咄嗟にヒューイの寝着を掴んだ。
「ダメだよ。ヒューイも要る……お父さんが居たらこんなカンジなのかなって…………リアナとヒューイの子供だったら……良いなぁって思うんだ……」
きっと毎日温かくて、シアワセなんだろうな。
そう思ってたら、リアナはクスクスと笑う。
「うん。そっか……、でも、お母さんやお父さんより、お姉ちゃんやお兄ちゃんの方が嬉しいけどね。年齢的には」
「あ゛」
それゃそうだ。
リアナはこの前20才になったとけだって言ってた。わたしが13だから、7才しか違わない。ヒューイに至っては24だから、11才。それでも親子には程遠い……。
「良いよ。そう思ってくれるのは嬉しいから」
「ぁぅ、ごめん……それから、仕事で忙しいのに我が儘言ってごめんなさい」
リアナは別に怒った様子もなく、ただ嬉しそう。
「リーはリアナより甘えるのが下手だな。気なんて使わなくていいんだ。またおいで」
「ホントに?」
「ああ」
リアナと同じ様にヒューイも優しく撫でてくれた。
「うんっ ありがとう」
また来たい。また一緒に過ごしたい。
初めて知ったクリスマス。
初めて貰ったクリスマスプレゼント。
初めて我が儘を言った。
初めて他人に受け入れられて嬉しかった。
でも、ホントに欲しいものは…………欲しいのは……。きっと……神様でも叶えられない。
おれは『要らない子』だから―――