PiPi's World 投稿小説
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No763-02/25 08:43
女/ミラージュ
KC3A-sjTCHV.6
「奢ってくれるって言ったじゃんか…」
何度目の罰金だろう。
彼はいつも寝坊をして、私を待たせていた。
「今日も寝坊?…少しは起きなさいよ…」
目の前には彼がいた。
永遠に眠り続ける彼が。
「…また…待たないとだめなの?」
私の言葉に反応しない彼。
いつもみたいに芸術家気取りで私のことからかいなさいよ。
言葉にしようとするが、口からは嗚咽しか出ない。
「……仕方ないから、待っててあげるわ…」
溢れる涙と嗚咽を我慢し、必死に彼につむいだ。

彼との約束。
それは一方的な約束。
でも、それがなければ、私は生きていけなかった。



月日は流れ、風景は移り変わっていく。
「……さっさと、起きなさい…よ」
しかし、私は変わらない。
たとえ、世界が変わろうとも。月日が過ぎても。
「待ってるわ…」
私は、見えない彼に呟いた。


次は、「彼」で。
No762-02/24 21:44
男/フロムポスト
CA38-kJEqyDBA
「罰金、やっぱり、本当に」
横の彼女はさっきよりしかめっ面だ。
オレ達の前には遊園地の代わりに、人気の無い寂れた街並みが広がっていた。
何の事は無い、オレの寝坊のせいであわてて駅のホームに入場、そのまま目的地の反対方向へ電車で一直線。
「いやー、怒ってる姿も絵になるね」
オレは朝のように手でフレームを作り、彼女をその中に入れた。
「…」
リアクションが無くて、少し悲しくなった。
「結構…楽しみにしてたのに」
彼女は沈んだ声でそう言った。
おっと、オレだってこんな時まで芸術家を気取りはしない。
気の利いた言葉で、彼女の気を晴らさなければ。
しかし、思考を巡らせようとしたオレを彼女の怒声が遮った。
「もういい!予定変更!探すわよ!目標、ケーキバイキング!!」
そう言うと、彼女はズンズンと先に行ってしまった。
まったく…女らしさより逞しさが勝る女だった。オレがため息をつきかけると
『んな所にホレたんじゃろうが』
頭の中で声がした。
…気のせいだ、神様なんていない。
うん、いない。
オレは彼女を小走りに追い掛けた。
『グッドラック』
後ろでおっさんがオレに親指を立てているような気がした。

「奢りだからね!」
「…やっぱり?」

次回は奢りで。
No761-02/24 20:28
女/ミラージュ
KC3A-sjTCHV.6
玄関に彼女。
俺は手でカメラの形を作り、それを覗きこんだ。
「へぇー、絵になるね」
芸術家気取りに言う俺に、彼女はしらっとした目を向ける。
「何が、絵になるよ。さっさと準備しなさいよ」
時計を見て焦る彼女。
今日は彼女と遊園地にいく予定だった。
「ふーん。焦る姿も絵になるね」
「遊んでんなら、ぶつわよ。寝坊助さん」
片手を挙げる彼女に、降参と手をあげる。
「ごめんごめん。ただ自分の彼女の美しさを再確認したくてね」
「なっ、そんな言葉で寝坊したこと許さないわよ…ほら、さっさとして」
「はいはい、わかったよ」
微かに赤く染まる彼女の頬をしり目に、俺は準備をしに玄関を離れた。

いつもの風景。
たわいのない会話。

神を信じていない俺だが、祈りを込める。
彼女との何気ない日常が何時までも続きますように、と。
この祈りをする時間くらい待っててくれるよな?




「遅かったわね…罰金よ」
「………」
今度は罰金なしに待っててくれ。

次は「罰金」で。
No760-02/24 17:13
男/フロムポスト
CA38-kJEqyDBA
やべ
ミスりました(^_^;)
次は『玄関』でお願いします。
No759-02/24 16:49
男/フロムポスト
CA38-kJEqyDBA
波紋がカップの中のコーヒーに広がった。
ブラックの日もある、ミルクだけを入れる日もある。
きょうがたまたま、砂糖をスプーン一杯入れたい気分だった、それだけの事だ。
その気分のお陰で、オレは滅多に使わない砂糖入れの横にあった、かつてこの部屋に居た彼女専用の紅茶の缶を見つけてしまった。
ベノアティー。
紅茶だけが唯一の趣味だった彼女が、好きだった紅茶の銘柄だ。
「あなたと別れても、これだけは持ってくからね」
彼女はよくそう言っていた。
缶を手にとって、ゆっくりと眺めて見た。
思い出そうとした、思い出したかった。
しかし、オレはそこに彼女との思い出を垣間見ることができなかった。
彼女がどんな真剣な面もちで紅茶を煎れ、どんな顔で紅茶を飲んでいたのかを忘れてしまった。
「なぁ」
オレはベノアに話しかけた。
「オレは本当に好きだったのかな」
返事は、あるはずも無かった。
オレは缶を置いた。
もう、彼女の事は自分からは思い出せない。
しかし、これからもこの缶はこの部屋に在り続けるだろう。
そしてそれを手に取る度に、オレは思い出すだろう。
墓参りに行こう。
そう思い、オレは車のカギを持って玄関を開けた。
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