PiPi's World 投稿小説
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No868-07/03 12:59
女/spring
TS3A-DWflWhE.
「食べられないなら無理しなくてもいい。若いから、水分と点滴だけでもしばらく大丈夫だろう」

医師は優しく微笑んだ。日曜の、こんな夜更けに訪れて、きっと迷惑だったろうに。看護士さんが評判の診療内科を紹介してくれると言う。ぼんやりと頷きながら、私は自分の好物たちを頭に思い浮かべていた。

ラーメン。焼肉。ファーストフード。

吐き気がした。母が背中を擦ってくれる。食べたいなぁ、あの店の、こってり豚骨ラーメン。チャーシューがいっぱい乗っててさ。うまいんだよね、これが。思い浮かべただけで涎が出る、と思いきや、出たのは胃液だった。出るモノなんて何も無いのに、それでも排泄しようとする体が解らなかった。

次は「解らなかった」でお願いしますm(_)mラーメン食べたいなぁ‥
No867-07/01 00:49
男/白いフクロウ
812SH-OtmwnKgP
 「ウジ虫を食べる国だってあるんだぞ」
 「マ、マジ?」
 「ああ。フランスのある地方のチーズだ。青黴なんてのは大分メジャーだが、ウジ虫のチーズはあまり知られてないな」
 「ふええ。世界は広いねえ」
 「食文化大国中国だって、こと料理に関しては他国の追随を許さない。脚のあるもので食べられないものは、机と椅子だけだと豪語する国だぞ。犬肉や猿肉、昆虫類も専売特許だ」
 「それは……」
 「不快そうな顔は、彼らに失礼だぞ。大豆の発酵品なんて気持ち悪いと言われたら、日本人として嫌な気分だろう」
 「まあ、そうだが」
 「……ま、そんなワケで。おまえの前にあるものはゲテモノでもなんでもない。むしろ立派な食材だ」
 「……はあ」
 「さあ、食え」
 「でもこれ……」
 「食え」



『食』で
No866-06/30 22:47
男/フロムポスト
CA38-kJEqyDBA
監督、というのが私の立場に一番近い言葉なのだろうか。
そんな事を考える私をよそに対面に座る男はまるで自慢話しをするように言葉を続けてた。
「へへ、あんな派手な死に方なかなかねぇだろ。かっけえんだろうなぁ…今頃地元じゃ伝説になってたりしてなぁ…」
この男、完全に自分に酔っている。
頭の悪いやつが自分に酔い始めるとたちが悪い。
どうしてこうも人間というのは色が決まっているのだろう。
泣く、喚く、自らの死や不幸に酔う、etc、etc
言葉にすればパターンは多いように見えるがその根本にあるものはほぼ同じで、初めてから百年程で私はこの仕事にすっかり飽きてしまった。
「お前の生き様もかっこ良かったし、お前の死に際もイかしてたさ」
分かったらとっとと行けと私は手をシッシッと振った。
男は構わず机の向こうから身を乗り出した。
「なぁなぁ、オレ生き返れるんだろ?」
「あぁ、そうだ」
「次はなんだろうなぁ…ロックスター、いやいや、ハリウッドスターってのも」
男が妄想を垂れ流しながら部屋を出ていくと、入れ違いに天使が書類を受け取りに入って来た。
書類を渡しながら、私は報告と愚痴を兼ねて彼女にこう言った。
「またウジ虫だよ」
「最近多いですね」

「ウジ虫」で
No865-06/30 04:49
男/F・R
SO903iTV-maFPPyb7
光沢を放つ二の腕が、ユニフォームの袖から覗いていた。
俺は、左手を伸ばし、ロージンをぽんぽんと弄ぶように指に馴染ませ、ぽんっと放った。
冗談みたいに太い腕でバットを棒切れのように背中の後ろでくぃくぃと揺らす朝黒い肌の男を、俺はプレートに足をかけたまま睨みつけた。グラブで目から下を隠し、『怪人』の異名を持つ男の目を射抜く。
やがてサインに頷き、背後にいるランナーを警戒しつつ高々と足を上げる。
投じた白球が弧を描く。そのまま、ボールはミットに吸い込まれた。腰を上げたキャッチャーの、ミットに。

『ボール、フォア!!』

主審が高々と宣告すると、怪人は相変わらず俺を睨みつけながら一塁へと歩いた。
俺は俺で、怪人から目をそらしベンチを睨んだ。忌々しいったらありゃしない。
「…敬遠も、作戦のうち…ですよね?…監督?」

次は『監督』で☆
No864-06/22 01:21
男/コルト
TS3H-KXZ26BBP
「憎い! 憎い憎い憎い憎い憎い憎いィ!」

片目を失い。
護るべきものを失い。
生きるための目標を失い。
狂気に呑み込まれた一人の少女は、ビッと服の袖を破り、それを片目に眼帯になるように巻き付けた。
震える足を無理矢理立たせ、狂う距離感を無理矢理支配する。
大きく深呼吸すると、少女の周りには蛍光色の光の珠が無数に現れた。

「もう私には何もない。死などどうでもいい。けど、お前だけは亡き相棒に誓って絶対に殺す。いいか、少年。これが私とお前の最終決戦だ」

少女の目には、憎しみとも悲しみとも怒りともとれる光が宿っていた。




「光」で。
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