PiPi's World 投稿小説
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No946-2009/05/24 22:34
女/リラ
F704i-LubnJlIH
地にふせた籠を持ち上げると、何かが飛び出してきた。


「雀捕まえてどうするんだよ。食うのか」
「まさか。これで本当に雀が捕まえられるのか試したいだけよ」
「閑なんだな」
「あんたもね」
ヒマ、という状況で、ひとは大抵ろくなことをしない。
大昔の賢いひとがなんかそんなことを言ってた気がするし、だいたい真実だとも思う。
籠を逆さに、縁の一カ所を棒で支えて隙間を作り──棒には紐が結わえられている。紐の端は当然わたしの手の中にあるわけだ──、籠の下にこめつぶを撒く。
実に古典的だ。
古典的過ぎるから敢えて疑いたくもなる。
いちぶの殿方が使う、浮気の言い訳や開き直りのようなものである。
関係ないけれど、縁側の、隣で寝そべるわたしの伴侶は浮気をしないから疑いようもない。


仕掛けてから小一時間、陽気に誘われ重たくなってきた瞼の下で、ちらりととらえた影。

籠の、罠の中に飛び込んでいった、ちいさな影。

考えるより早く、紐を引いていた。

──雀などではなかった。籠の下から出てきたものは…


『出てきたものは』で
No945-2009/05/21 15:13
女/桜井えり
822P-HCGrcAc2
いっしょにいようね、ときみが言った、あれは呪いだったのだと今頃気付く。

「ずっといっしょにいよう」

地面が斜めっていることを知ってしまったきみは、まっすぐ立てなくなってしまった。

「ひとりぼっちはイヤだよ」

同じ違和感を知っていて、けれどそれに見ないふりをするぼくをきみは許さない。そのための呪いだ。ぼくを捕らえたのだ。もう決して逃れられない。

「ねえ、いっしょに行こう」

きみが望むなら共に行こう。すべての歪みにさよならを告げて。ぼくの呪いは形を成し、きみの願いは露になる。

そしてぼくらは地にふせた。



『地にふせた』でどうでしょう^^
No944-2009/05/21 14:30
男/白いフクロウ
831P-OtmwnKgP
 ただ笑った。
 突っ込みをいれるでもなく、反論するでもなく、ただ素直に、朗らかに笑ってくれる。
 君のその笑顔がどれだけぼくの心を和ませるか、どれだけぼくの心を乱すか、君は知らないだろう?
 ああ可笑しい、と涙さえ浮かべて君は言う。
 ぼくは満足して、また馬鹿な冗談を考え始める。
 君に笑って欲しくて。


 ただ笑った。
 遺影のなかの君の笑顔は、五十年前のあの朗らかな笑顔となにも変わることなく。
 金婚式にかけた冗談でも、言ってみようか。
 君はまだ笑ってくれるかな?
 いつかまた、いっしょに笑い合おう。
 いつかまた、いっしょに。


『いっしょ』で
No943-2009/05/10 01:54
男/髭
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なんてことの無い日常が僕を形成する重要な成分なのだ、と彼女は言った。でもだからといって、彼女と僕が過ごして来た日常は、きっと明日の朝になれば消化し終えている些細な出来事だ。それはそうと、僕は彼女が話す時に魅せる鼻をかく癖が好きだった。
「でも日常って言葉、素敵だと思わない? だって奇跡でしょ。毎日は違うはずなのに、日常は毎日を同じの様に見せる。昨日と今日の貴方は全くの別人なはずなのに、何年たっても貴方は貴方。それって矛盾してるのに、当たり前なのよね」
彼女は鼻のてっぺんをぽりぽりとかきながら一息にそう話すと、ただ笑った。鼻の先が赤くなっているのを、僕は可愛いと思った。
「だから君は、日常こそが僕らの主成分だと思うんだ?」
「というよりは、そうあって欲しいと思っているの。だってそうじゃなきゃ、貴方と過ごして来た愛しい日々は、悲し過ぎるじゃない」
僕は、彼女が鼻をかくその指や、赤くなった鼻頭や、またはその他もろもろを全て愛しいと思った。
「なるほど、君がそういうのであれば、日常こそが僕らの全てなのかもしれないね」
彼女はまた鼻をこすって、ただ笑った。





次「ただ笑った。」で。
No942-2009/05/04 14:21
女/リラ
F704i-LubnJlIH
苦労させないでくれよ。
何度も言ってきたはずじゃない、わたしにだけは嘘吐くな、隠し事するな、って。


そう、だから此処数日、態度がおかしかったの。
だから此処数日、晩ご飯を殆ど食べなかったの。


あなたが忘れた財布から束になって抜け落ち床に散らばった、たくさんのカードの中に見つけた。





まさかあなたがこっそり、お寿司ぱくついてきてたなんて。





『なんて』で。
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